ノブヤンのひとりごと「バイロイトの第9」 その(4/5)

〜 ベートーヴェンの第9 〜

自分が初めて買った第9のレコードは、シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団演奏のものでした。 なぜミュンシュなのかというと、1枚のLPレコードに、第9とレオノーレ序曲3番がカップリングされた、超長時間録音盤だったからです。 中学生だった自分がお小遣いを貯め、ようやくLPレコードを集め始めた頃で、1枚でより多くの曲が聴けるレコードを探し求めて巡り合ったのが、何の予備知識もなかったミュンシュによるこのレコードでした。 メリハリの効いた明快でシャープな演奏はすぐに気に入り、また音楽雑誌からミュンシュが大指揮者であることもわかり、ますます気に入りました。(写真6)

写真6     ミュンシュの第9のレコード

そんな中学時代、同じ学年でクラシック音楽が好きな友達ができました。 その彼は、フルトヴェングラーのベートーヴェンの交響曲のレコードを集めているとのこと! その頃の私には、フルトヴェングラーが何者なのかを全く知りませんでした。 今思えば、その友達はすでにマニアックな聴き手だったのかもしれません。 お互いの家に行っては持っているレコードを聴き合い、知っている情報を交換し合うといった素朴な楽しみ方をしていましたが、彼が薦めるフルトヴェングラーの演奏は、とにかく遅くてまどろっこしく、ミュンシュの演奏に慣れた私にはついていけませんでした。 特にバイロイトの第9の3楽章ではなかなか先に進まず、「なんかつまんないな…」と思いつつ、4楽章の最後の狂ったような猛スピードの終わり方には、思わず大笑いしてしまいました。 「わざと極端にテンポを変えているのか? まるで冗談で人を笑わすような変な演奏!…」と本気で思い、フルトヴェングラーのレコードには興味がありませんでした。
ところが私が高校生の時に、ヨーロッパを一人旅してきた兄が、お土産に買ってきてくれたフランス・パテ盤のバイロイトの第9を聴いてから、180度認識が変わりました。 私自身の内面的な成長があったのかもしれませんが、レコード雑誌で高く評価されているバイロイトの第9の凄さを、この時になって初めて理解できました。 特に印象が強く残ったのは、3楽章の幽玄な奥行と天国的な美しさです。 そして音楽を勉強するようになってからは、ますますフルトヴェングラーが神様に思えてきました。 揺れ動くテンポはそのまま人間の鼓動とつながっており、極端なまでの強弱には、音楽の本質をえぐり出す必然性があって納得させられてしまいます。 紙に印刷された楽譜から、よくぞここまでの大きな音楽が創り出せるものだと、ただただひれ伏すのみです……。(写真7)

写真7   フランス・パテ盤、バイロイト第9のレコード