″hatakeshun″のひとりごと(辻本 簾さん(NHKサウンドエンジニア)の思い出、その2)
辻本さんにお目にかかったのは2005年である。
私は2002年、60才でTDKを定年退職した。 2000年、定年を間近にした私は最後の仕事として、FM東京で放送された「TDKオリジナルコンサート」のCD化事業を手がけた。 「TDKオリジナルコンサート」は日本で行われたクラシックのコンサートを収録して放送する、いわゆるナマ収録番組である。 社内では「クラシックなんて、売れても数百枚だよ」という声があった。 しかし、このCDが大ヒットした。 最初に発売したフルニエの無伴奏チェロ組曲全曲は初回オーダーが2千枚を超えた。 第2弾のベーム・ウィーンフィルは1万枚を超えた。放送音源のCDはレコード会社から発売されているスタジオ録音と比較して、演奏、音に生ナマしさがあり、クラシックファンの心を捉えたのである。
2005年、TDKを退職して自由の身になった私は、放送音源をCD化した商品をリストアップするとともに、収録に携わったプロデューサ、エンジニアの方々の苦心談をまとめた本を企画する。 この時、「ステレオ放送80年の歩み」の執筆を辻本さんに依頼したのである。 この本は「伝説のクラシック・ライヴ」としてFM東京出版から同年12月、発売された。
辻本さんのプロフィールを見てみよう。
1994年広島県生まれ。 幼少より音楽好きでピアノを学ぶが、電波やオーディオへの興味も絶ち難く、結局工学系に進む。 1969年NHK入局。 4年の松江局勤務後、放送技術研究所音響研究セクションでステレオ音響技術、音響評価技術の研究に従事。 13年後、制作技術部門に移り、音楽番組のミクシングとデジタル音声制作技術の開発、放送系統の音質改善研究を行う。
2001年退職して関連会社に転籍し、音声制作を継続。 2008年に第2の定年を迎えるが、引き続き契約社員として業務を継続。 2001年以降、(社)日本ポストプロダクション協会・技術委員会委員。制作担当番組は「オペラ・ファンタスティカ」「ベストオブクラシック」「名演奏ライブラリー」「N響ザ・レジェンド」「世界の快適音楽セレクション」など、FM番組が中心である。