"kazu"のひとりごと(バイロイト詣を想う)
2018年も無事バイロイト音楽祭が終了した様でご同慶の至りである。この劇場の見果て得ぬ夢は「無料で」人々が観劇出来る劇場になる事であったはずであり、R・ワーグナー自身それを望んでいた。
理想と現実は甚だしく乖離しており、バイロイト音楽祭は無料とは対極に位置する音楽祭になったまま今日に至っている。確かに劇場を運営するには大変な額の資金が必要となり現実として稼がなければ作品を上演する事は不可能である。ワーグナーの後継者となった妻、リストの娘コジマが最初に頭を悩ましたのが財政問題なのは当然の成り行きであったし、ワーグナー自身の時代から運営資金不足はバイロイトと言う理想郷を常に脅かす頭痛の種であり続けた。
それは今日に至っても変わらぬままになっている。バイロイトの運営はワーグナー家から財団に移管しドイツ連邦、バイエルン州が主たる権限をもった体制になっている。ワーグナー家もその次に権限を持って運営の実務に従事しているが、資金調達は常に最重要課題であるのは変わらぬままだ。そしてお決まりの権力闘争。
ワーグナーのひ孫、ジークフリートの孫、カタリーナ・ワーグナーが現在は総裁として、気鋭の演出家として実権を掌握している。ユダヤ人との和解を念頭に置いた政策などにも熱心である。それはそれで良いのだが、二頭体制の姉エファを追放し実権を握ったカタリーナにヴィニフレート・ワーグナーの亡霊を見る様な気持になるのは考え過ぎだろうか。
特にバイロイトはアドルフ・ヒトラーとナチスの聖地であり、そのつながりを演出し希求したのはヴィニフレートだったのは周知の事実である。
時代が違うし、カタリーナに野心があろうと、もう二度とそんなことはあり得ないと気楽に言えるだろうか?今、ヨーロッパ諸国では右傾化の波が押し寄せている。
本当にバイロイトは政治的に利用される事はないのだと誰かが保証してくれるのだろうか?ドイツ連邦か?バイエルン州か?保障など出来る訳は無いし、野心はともすると常に強大な権力と溶融してしまいがちである。
再び私達が悪夢を目の当たりにしない事を願い、2018年のトリスタンとイゾルデのプログラムを見ながら彼の地、バイロイトを想う。
願わくば、ただ音楽が平和のためにだけあらんことを。