"kazu"のひとりごと(SPレコード雑感 8、サウンドボックス ついで真空管アンプの話し)

現在のLPレコード再生と同じ様に蓄音機も針がありSPレコードに刻まれた溝から音を拾い出します。 今更ですが、あまりにも当たり前の事を申しております。
LPレコードから音を拾い出すのはカートリッジでレコード溝の振動を電気信号に変換します。 SPレコードでは針に伝わる振動は振動板を震わせて音として取り出しラッパで増幅して聞きます。 LPレコードのカートリッジと違い電気の介在は一切ありません。 振動板はアルミやジュラルミン、古いタイプですと雲母を使っていたりします。
この針を付ける振動板のついている部分をサウンドボックスと呼んでいます。 今更ですが、当たり前の事を申しております。

現在はSPレコード再生にも電気信号に変換するカートリッジを使用している方が一般的かもしれません。 LPレコード再生時もそうですが、カートリッジはそれぞれの個性がありカートリッジを変えて楽しむと言う聞き方がSPにしろLPでも出来ます。 カートリッジを変えると確かに音が変わり、好き嫌いがありますし能力の違いもありますので気に入ったカートリッジを見つけ出すまで放浪の旅をする方々がいらっしゃるわけで泥沼にはまり込んで幸せな人たちも(いえ、不幸かもしれませんが・・・)大勢いらっしゃる訳です。
ですが、何だか世の中、どうにもオルトフォンのSPUだとか特定の銘柄の(はっきり申しましてお値段の張る)カートリッジがもてはやされてばかりいて辟易させられてしまいます。 どれが良いかは人それぞれのはずですが、皆さん個性が無いですね(若干皮肉まじり)。

ところで蓄音機のサウンドボックスも口径が合えば付け替えて聴くことが出来ます。
でも、その場合、電気信号変化のカートリッジの様に音色の違いだの、トレース能力の差だのジャズ向きだのクラッシク向きだのと言う違いよりも(そもそもそんなに繊細に音楽のジャンルや好みによる違いを表現する役割は例え出来るにしても、サウンドボックスは担っていません)もっと大切な能力が求められているのです。
その能力とは如何に音を大きく出来るかです。電気増幅が出来ない蓄音機にとっていかにより大きな音が得られるかは大きな問題なのです。
写真の左のサウンドボックスは初期のヴィクトローラー蓄音機に標準装備されていたサウンドボックスです。 エキシビジョン(展示・展覧)と呼びます。 下にあるのがNo,2と言うサウンドボックスです。 エキシビジョンの後継タイプです。 二つとも雲母を振動板に使っています。 違いは振動板に当たる雲母の部分がNo,2は大きいのです。
その上にあるのがアルミの振動板を使った比較的新しいタイプ、一番右手にあるのが日本製のアルミタイプのサウンドボックスです。

確かに音色や表現に違いはありますが、一番の違いは音量です。 初期のエキシビジョンより改良型のNo,2の方が出てくる音が大きく迫力が増します。

カートリッジはアンプリファイアーが音を増幅してくれますので、カートリッジの出力の大小はあまり気になりませんが、機械仕掛けの蓄音機は、如何に音量を上げるかが求められる要素の一つでした。 ラッパを巨大化したり他にも音量増大の手段はありますが、大元のサウンドボックスにもより大音量が出せるよう機能強化を求めたのです。 No,2へのモデルチェンジはその一環だったと推測します。

カートリッジの様に音色や気に入った音の為に取り換え引き換えするのとは少し違ったサウンドボックスの役割や設計思想の世界がそこにあります。 アンプリファイアーによる電気仕掛けの増幅はまだ先の話しだった時から実演に近づける努力を先人達は行って来たのです。
昔を懐かしんで骨董趣味に走って言う訳ではありません。 今では雑音が多く稚拙に感じる蓄音機から響くSPレコードの音ですが、まるでそこに歌手が、独奏者がいるように感じる音楽を聴くと雑音だの稚拙な音だと言う事はまったく出来ません。 実演に如何に近づく事が出来るのかに賭けた技術者や演奏家の心の叫びが確かにそこに聞こえるのです。

今、真空管アンプが見直されて流行っているそうですが、「暖かい、丸みのある、ふくよかな今のオーディオにはない音がする」と門切り型の表現が一人歩きをしています。
当時の技術者が丸い音を目指しましたか? 暖かい音を出そうとしましたか? ふくよかな音を表現しようと回路設計をしましたか?
とんでもない! 当時の技術者達も実際の演奏をお手本にしてそこに近づくべく努力を重ねたはずです。 鋭い音、激しい表現、地響きのする低音、空の彼方に登る高音を目指したのではないでしょうか。
真空管に灯る光が温かみを感じさせるから、丸みや温かみを勝手に空想し、昔の技術だから今のトランジスターやICの様な音は出せないなどと言うのは間違いです。 電気特性上は現在の技術にかなわないのは事実ですが、真空管アンプでも如何に実演に負けない近似値の音を出そうと努力したかを知ることは大切な事です。 真空管の時代だって目指したのは実演と違わぬ音だったはずです。

少し辛口になってしまいましたが、サウンドボックスを並べてみていたらふとそんな思いが心に浮かびました。
サウンドボックスはカートリッジの様に取り換え引き換えするものではないと、取り換えることにあまり大きな意味はないと思いながら、本日も1面に付き1本の針をサウンドボックスに取り付けてレナー四重奏団のベートーヴェンを聴くことにします。
実はカペー四重奏団よりレナー四重奏団の方が好きなんです・・・ここだけの話しですが。

蓄音機のサウンドボックス