kenのひとりごと(ビエロフラーヴェクのチャイコフスキー)
中学生の頃、チャイコフスキーの『悲愴』をよく聴いた。 カラヤンとベルリン・フィル(1976年録音)のLPだったと思う。 そうした折に『悲愴』の生演奏を聴く機会に恵まれた。 1986年10月31日、日本フィルの第86回名曲コンサート(写真1)。 当時40歳のチェコの俊英、イルジー・ビエロフラーヴェクの演奏だった。 その後もLPやCD、ラジオや生演奏で多くの『悲愴』を聴いたが、あの時以上に感激した演奏はいまだにない。 少年時代の体験や印象は恐ろしいものである。 演奏会の帰り道、聴衆の一人であったおじさんが駅のホームで第1楽章の主題を歌っていたことを思い出す。 私も主題を指揮するビエロフラーヴェクの姿が脳裏に焼き付いているので、『悲愴』の旋律美を見事に伝えた演奏だったのかもしれない。 その演奏が東芝EMIを通した日本フィルの制作版で販売され、数年前に偶然手に入れた(写真2)。 いまも、よく聴く愛聴盤である。 『悲愴』は一度聴いて「もう十分、結構です」という熱く重い演奏も多いが、この演奏は何度も聴くことができる。 CDは筆者が10月31日に聴いた簡易保険ホールでの名曲コンサートではなく、その翌日、11月1日の神奈川県民ホールでの横浜定期公演の演奏。 CDからあの日の感激は得られないが、演奏の雰囲気は感じ取れる。 これが実演と録音の印象の違いというものか。 または初日と2日目との演奏内容の違いか。 いずれにしてもビエロフラーヴェクが度々来日して様々な演奏を残しているにもかかわらず、日本フィルがこの『悲愴』をCD化したのは、オケにとっても完成度の高い、誇れる演奏だったからに違いない。たしかに1・2楽章など、弦がもたれずによく歌い(筆者の記憶通り)、まとまりがよい。強弱も明快で丁寧な音楽。3楽章も管楽器がバランスのよい音を出す。4楽章は悲しみよりも清々しさを感じる。 録音も優れていてオーディオファンの方にも薦められるCDである。 CDに収められていないが、前半の『売られた花嫁』序曲と清水和音によるチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番も良かった。 ビエロフラーヴェクが指揮したチャイコフスキーのCDとしては、同時期にプラハ交響楽団を指揮した組曲の全集がある(写真3)。 特に3番と4番は素朴だが丁寧でメリハリが利いた名演である。 ほかにビエロフラーヴェクが指揮したチャイコフスキー演奏があれば、今後、聴いてみたい。