kumachanのひとりごと(オーディオ漫遊記2)
〜 秋田からアナログレコード周辺事情の便り 〜
<フォノ・イコライザー・アンプの真空管式とオペアンプ式の鳴き比べ>
ESIエレシステムより、バッテリー駆動オペアンプ式のフォノ・イコライザー・アンプEA-101F(写真1)を入手してからは、脇目も振らずレコードを楽しむ時間が増えました。 というか、パソコン作業時のBGM以外、心して音楽を聴くと決めた場合は必ずレコードを引っ張り出して聴く快感に浸っています。 これまでとは別次元のアナログレコード再生の経験値を積んでいるといった感じです! しかしです、真空管式のフォノ・イコライザー・アンプ、EA-1010(写真2)の評判があまりにもよいので興味を持っておりました。
オペアンプ式でも十分の性能だということは判りましたが、真空管で名を馳せたESIですから、コレを試してみたい衝動はどうにもこうにも抑えきれません。 そこでESIのI氏に相談すると「興味を持ってくれてありがとう! フラッグシップのEA-1010には及ばないけれど、手持ちの在庫の材料で真空管式のフォノ・イコライザー・アンプ作ってみるから」と天の声が降りてきました。 10日程待って出来上がった試聴機、2台の筐体でワンセット。 片方は電源部付きフォノ・イコライザー・アンプ(写真3)。 もう一方は3系統の入力が可能なMCヘッド・アンプ(写真4)。
ケースのサイズに制約があり、設計通り狙った音が出ないと、I氏は浮かない顔でした。 限られたスペースに電源トランスと微小信号の増幅回路をノイズ極小にしてパッケージングするという難題を、I氏の中で消化し切れていないという事でした。 無理を承知で受けて頂いたI氏に何の落ち度もありません。
トーンコントロールである程度周波数特性は補正出来ると判っていますので先ずはお借りしますと自宅に持ち帰って、早速MMカートリッジを試します。 なるほど社長の苦闘が判りました。 電源部を組み込んだフォノ・イコライザー・アンプ本体のレンジの伸びがイマイチで、ノイズの影響を抑えるためでしょう、ゲインも控えめでした。
MCカートリッジを真空管式のフォノ・イコライザー・アンプ+MCヘッド・アンプで試しましたが、精細感も不足気味で、この状態での音はオペアンプ式を凌ぐまでには及ばない感じでした。 何かいい方法がないかと想いを巡らす日々が続きました。
後日、真空管式MCヘッド・アンプとオペアンプ式のフォノ・イコライザー・アンプを組み合わせた使い方をまだ試していなかった事に気が付き試してみる事にしました。 カートリッジはメンテを終えたばかりのオルトフォンMC20 suprimeを真空管式ヘッド・アンプに繋ぎ、その出力をオペアンプ式のフォノ・イコライザー・アンプ本体のMM入力端子に繋ぎ込むという「真空管+半導体」のハイブリッド接続を行いました(写真5)。
これだ コレ! 真空管ヘッド・アンプの電源は外付け電源から取っているので、電源系のノイズも全く出ず、オペアンプ式のヘッド・アンプ回路から得られるシャープで少し角張った音調とは明らかに違う音を聴く事ができました。 密度が濃いという表現に集約されるかと思いますが、滑らかな弾力のある有機的な音を放出してきます。 この音は非常に自分の好みに合い、大満足。 ボーカルもののレコードでもサウンド・ステージがより空間を広げて再現できていて、バイオリン協奏曲の独奏の突き抜ける高音が綺麗に響くだけでなく、ボウ(弓)の松脂がしっかり引っ掛かるところの演奏ノイズも再現しているのにはただただ息を呑むばかりの圧巻でした(写真6)。
現時点では最高レベルの再生音です。 ハイレゾデジタル音源に対して数値性能では完敗なのに、何故か「この音が聴きたかったのだ!」と言わせてしまうレコードの懐の深さに改めて感動します。 ESIの製品群をメインのアンプとして使うようになって益々泥沼から抜け出せません。 レコードにはどんな魔法が掛けられているのか知る由もありませんが、知れば知るほど奥が深い。 ホントに不思議な世界です。 トーンアームはサエクWE407/23で軽めの針圧⒈8gで試しました。 試聴したフィリップス盤は、俗に「蜂蜜をまぶした様な甘い音がする」事で有名ですが、このシステムでは上滑りすることの無いしっかりとした演奏を楽しめました。 レコード鑑賞後のカートリッジ・スタイラスのマイクロスコープ画像が(写真7)です。 天童市在住のカートリッジ・マイスター I氏に植え換えて頂いた無垢ダイヤのシバタ針でレコード溝との接触面積の増大により、綺麗にしていたはずのレコード盤の溝から新たなゴミが掻き出された様に思います。 同じ盤で一皮むけた鮮度抜群の再生を今楽しんでいます。 一寸前より良い音です。
後日、嬉しいメールが届きました。
天童のI氏から、針折れカートリッジDENON DL-103(写真8、9)のメンテが完成したとの朗報です。 オークションで格安の品を入手して、以下のメンテナンスメニューを依頼していたのです。
・ボロンカンチレバー
・無垢ダイヤのシバタ針チップ埋込み
・フロントヨーク研磨後再メッキ処理
・制振材の内部貼り込み
・銅箔ダストカバー
・外部ダークブルーメタリック塗装後、平滑研磨仕上げ
カートリッジ・メンテナンス・マイスター I氏からは「DL-103 ボロン・カンチレバー+シバタチップの音質についてですが、全域において歪みが激減してクリアーかつスピード感が増していると思います。 低域の解像度と高域の伸び具合が良いと思います。 本来のDL-103に感じる歪感や濁りが減っているため明瞭感が出ているように感じます。あくまで私が感じていることですが。」との感想が届きました。
さて どんな音を出してくれるのでしょうか!
実物が届きました。 「DLー103」のスペシャル改造品(写真10〜14)。 オリジナルとどう違うのか、ボロン・カンチレバー、無垢ダイヤのシバタ針チップ、ボディーの共振鳴きの低減は如何程かなど。 針折れ品を送り、メンテナンスを依頼すると2〜4万円程度(メニュー選択の項目により増減)の費用が掛かりますが、この費用対効果、満足できる音が出ていれば問題無いのですが果たして…
シバタ針のおかげでしょうか、何度も繰り返し聴いてきたレコードの音溝からビックリする程のゴミが掻き出されます(写真15)。
丸針や楕円針より奥底まで針先が届き、なおかつ溝の左右の壁面に接する面積が格段に増え、カンチレバーのしなやかな追従性の良さで今まで針の
接した事のないエリアの介在物が剥ぎ取られた証拠だと思っておリます。 スタイラスには繊維状のゴミ、レコード盤にはポロポロと白いカス状のゴミが点々と転がっています(写真16)。 オルトフォンのシバタチップ植替品と同じ現象が確認されたことになります。
肝心の音ですが、オリジナルのDL-103との差の一番の注目点は歪み感が低減されるかです。 ボーカルのサ行の歪みっぽさが聴くに耐えなく途中で聴くのをやめてしまうレコードが何枚かあります。
最初のレコードはロバータフラックの「ダニーに捧ぐ」(写真17)、B面の最終バンドの楽曲「スティウィズミー」のロバータの声の張上げがどうしても歪み感が伴います。 CD音源でもこれは消えません。 元々オリジナルマスターテープがそうだった可能性はありますが、カートリッジを替えると気になる歪みレベルが変動する事が分かっていますので、この盤が私の中では一つの基準になっているのです。 改造カートリッジのシバタ針が効果を発揮しました。 ESIのフォノEQアンプシステムの効果もあるのか歪み成分を拡散して気持ちよく音楽に没入できます。
邦楽でも試してみました。 ステレオサウンド社から出ている今井美樹の「ダイアローグ」45回転盤です(写真18)。 1曲目の「卒業写真」、期待意以上の出音だと先ずは宣言しておきます。 歪み感の激減がこんなにボーカルのリアルさをパワーアップしてくれるなんて! もう止まらなくなってしまいました。 サザンオールスターズの桑田さんのダミ声も味わいのあるいい声!だし、斉藤由貴の「卒業」、松田聖子の「スイートメモリーズ」、時空を超えて若かりし自分と向き合っている。 DLー103はせいぜいこんな音しか出せないのだと諦めていた自分がいたのですが、今は違います。 適性針圧を1割程軽い2.2gと定めると、湿度感が加わった繊細な音の拾い出しに変わります。 針のすり減りや、カンチレバーの折れてしまったカートリッジをジャンク箱に仕舞い込んでいる方はカートリッジのメンテナンスも頭の片隅に置いてほしいところです。 メーカーのラインナップは価格の階級と出てくる音のレベルを明確にあわせる宿命があります。 今回、改造にかかる費用と同等の交換針代金で新品を買えますが原機以上の高品質な音を引き出す事が可能になります。 まあ趣味人の独り言としてご笑覧ください。
レコードプレーヤーのハウリング対策の基本的な仕組みは、フローティング方式と、重量で抑え込むリジッド方式に大別できます。 私の場合プレーヤーはゴムベルト仕様のマイクロ BL-111に銅製ターンテーブルシートを乗せて、アームはサエクのWナイフエッジのショート(WE407/23)と、ロング(WE308L)。 この状態では緩みを排除したガチガチシステム、大音量ではハウリングがおきます。 スピーカーからの音響振動が床→ラック→プレーヤー(カートリッジのカンチレバー&スタイラス)に伝わり音を濁らせます。 この悪循環のメカニカルフィードバックをインシュレーターWind Bell WB-60で絶縁しています(写真19)。
ヘッドシェルとアームのロック機構にもガタつきを排除する為、一般にはゴムワッシャーを挟みますが、音がなまる傾向にあるのでカーボンシートから切り出したワッシャーに変更しています。 この様なリジッド(高剛性)をベースにしたレコード再生システムでは各種パラメーターを原理原則通りの調整をしないと、まともな再生が難しいのです。 特にアームが要求するオーバーハング、ラテラルバランス、ヘッドシェルの水平度、インサイドフォースキャンセラーの量などは言うに及ばず、カートリッジの取り付けビスの材質、針圧をかけた時のカウンターウェイトの支点との距離が最短となるサブウェイトの準備など、目一杯の調整をしても取りきれなかった歪み感が、今回のカートリッジの改造でいとも簡単に改善してしまった事には驚きです。 勿論これはあくまでも個人としての感想です。
一方、デジタル音源を追求するとまた新たな喜びと苦悩ありそうです。 新たな泥沼にいずれ入る事になりそうです!