"nobu"のひとりごと(追悼 映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネ)
去る7月6日、イタリアの生んだ映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが亡くなりました。91歳でした。
モリコーネは1928年ローマ生まれ。 一昨年1932年生まれのフランスのフランシス・レイが86歳で亡くなり、映画音楽界の大御所はアメリカの同じ1932年生まれ、ジョン・ウィリアムズだけになってしまいました。 幸いジョン・ウィリアムズは最近もウィーン・フィルを振って自作を録音するなど、衰えを感じさせない活躍で健在ぶりを示しています。モリコーネの父はジャズ・トランぺッター。 6歳の時にはすでに作曲を始め、ウエーバーの歌劇「魔弾の射手」序曲を聴いて感動し、「狩り」をテーマにした曲を書き、それが後の西部劇の音楽に役立ったと言います。 16歳でサンタ・チェチーリア音楽院に入学。 現代音楽作曲家のゴッフレード・ペトラッシュに師事。 その後は前衛的な現代音楽を数多く書きながら、ポップスのアレンジャーとしての実績も積んで行きました。 その感覚を最初に映画に持ち込んだのが1961年の「狂ったバカンス」で、その後1964年の「荒野の用心棒」、1965年の「夕陽のガンマン」、1966年の「続・夕陽のガンマン」とセルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演の3部作で、マカロニ・ウエスタン・ブームの火付け役となります。 現代の若い世代ではモリコーネといえば「ニュー・シネマ・パラダイス」を真っ先に思い浮かべるようですが、私のモリコーネとの出会いはやはり、マカロニ・ウエスタンでした。 トランペットとギター、口笛や、ちょっと奇妙に聴こえるボーカルとスキャット。 斬新で刺激的、これまで聴いた事のない新鮮な響きに興奮したものです。 その後は次々と傑作が生まれて行きますが、特に印象に残るのは60年代後半から70年代の作品です。 なかでも「シシリアン(1969)」、「わが青春のフロレンス」(1970)、「夕陽のギャングたち」(1971)、「華麗なる大泥棒」(1971)、「死刑台のメロディ」(1971)等がこの時代の代表的な作品です。 「死刑台のメロディ」では、ジョーン・バエズの歌う「勝利への讃歌」が有名ですが、モリコーネの曲にバエズ自身が作詞して歌ったタイトル曲では、重苦しいテーマの作品ながら、まるでレクイエムのように響く清らかな声が印象的でした。 モリコーネの音楽は、リズミカルでパンチの利いた楽曲からしっとりとした美しく味わい深い楽曲まで、豊かな旋律が絶妙なバランスで溢れ出て来ます。 さまざまな楽器を使い分けて雰囲気を作り出すのはモリコーネの得意とするところですが、とにかく巧みで秀逸。 誰にもまね出来ないモリコーネ・サウンドを造り上げているのです。
セルジオ・レオーネ監督とは「ウエスタン」(1968)、「夕陽のギャングたち」(1971)、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(1984)と最後まで深い絆で結ばれましたが、80年代の代表作としては、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」、「ミッション」(1986)、「アンタッチャブル」(1987)、そして「ニュー・シネマ・パラダイス」(1988)を挙げることが出来ます。「ニュー・シネマ・パラダイス」はモリコーネ作品の中では最も人気があり、実際これだけ名曲の揃った作品も珍しいでしょう。 この映画はシチリア島内陸部の小さな街、パラッツォ・アドリアーノで撮影され、住民は総出でセット作りに協力、エキストラとしても出演しました。 モリコーネは撮影前に音楽を完成させ、音楽を流しながら撮影を進めて行きました。 街全体がモリコーネの音楽に包まれながらこの映画は完成したのです。 「ニュー・シネマ・パラダイス」で特に有名なのが「愛のテーマ」ですが、実はこの曲だけが息子アンドレアの作曲だと言う事はあまり知られていないようです。 モリコーネは4種類の「愛のテーマ」をジュゼッペ・トルナトーレ監督に聴かせ、選んでもらいました。 4種類の中に息子アンドレアの作品も入れておいたのですが、監督はこの曲を選んだのです。 この時アンドレアは23歳、この才能にも驚きます。 こうして親子の共同作業が実現した訳ですが、モリコーネの編曲によってこの曲はさらに輝きを増したような気がします。 その後モリコーネはほとんどのトルナトーレ監督作品に曲を書いていますが、90年以降の代表作として「海の上のピアニスト」(1998)と「マレーナ」(2000)を挙げましょう。 「海の上のピアニスト」は私の好きな映画のひとつですが、奇想天外な物語とともに、ここでもモリコーネの音楽が光ります。
先日古いDVDを取り出し、ひさしぶりで「夕陽のギャングたち」と「ニュー・シネマ・パラダイス」を観ました。 あの「ションション」から始まる美しく雄大な音楽が心に残る「夕陽のギャングたち」。 組曲のように名曲がちりばめられた「ニュー・シネマ・パラダイス」。 映画とともにモリコーネ・サウンドに酔いしれました。 さて、次は「ミッション」を観ようか、「海の上のピアニスト」を観ようか……。 しばらくはモリコーネ三昧が続きそうです。(Nobu)