"T0RU"のひとりごと(~ 郷愁を誘うメロディの数々 〜 ヴォーン・ウィリアムズの世界④)
~ ヴォーン・ウィリアムズの世界④ ~
とっておき名曲ベスト10 (その②)
モテット「主よ、あなたは我らの避難所なり」
その①では、比較的有名な吹奏楽、「イギリス民謡組曲」を紹介しました。
今回その②は、私のこだわりの一曲で、合唱曲。
さらに、「宗教曲」である分、日本人には馴染みの薄い曲かも!?
この曲との「ファースト・コンタクト」は、今を遡る事34年前、場所は山梨県民文化ホール。 結構、衝撃的でした。
転勤先の甲府市にいる頃の話です。 街なかで、たまたま見かけたクラシックのコンサート情報…。
『待望の三度目来日実現! 英国から21世紀の若き文化使節たち』
「英国ケンブリッジ大学 キングズカレッジ合唱隊」とあります。
ライブのコンサートに飢えていた私にとって、「目の前で音楽を聴けるなら!」と、喜び勇んで駆けつけました。
曲目は、バッハをはじめ、キリスト教の教会で歌われている神聖な音楽が続きます。 ステージの様子は、日本でも馴染みのある、「ウィーン少年合唱団」を想像してみて下さい。 キングズカレッジ合唱団の歌声は、思い描いていた通り、清涼で、曇りのないハーモニーが心地よく、日頃の疲れが癒やされます(指揮は、名匠スティーブン・クレオベリー)。 ところが、罰当たりな私は、コンサートの後半にさしかかるにつれ、あまりの心地良さに、今度は「眠りの森」に迷い込むことに…(ほんの数分だったと思いますが…)。 意識が戻ると、ステージでは次の曲が始まっていて何やら、今までの曲と趣がまるで違います。 慌ててプログラムを見ると、ヴォーン=ウィリアムズの曲ではないですか!! 霧の中(例のユニゾンによる開始)を歩いていると、バリトンによる独唱が、突然
「Lord,Thou hast been our refuge from one generation to another. 」
主よ、あなたは我らの避難所なり…と、熱唱。
周囲に「宣言」しているかの様です(音楽の熱量の大きさでたたき起こされます)。
その場の空気を変えてしまう程のエネルギー。 茫然自失とは、この事かもしれません。 合唱団は、意味深いハーモニーで、バックを支えて行きます。 ここが最初のヤマ場。 歌詞は、旧約聖書によるのだそうです。 曲は、いったん沈静化します。バリトン・ソロと、合唱団が、今度は交互に歌い継ぎ、平穏が訪れます。 それでいて、次に起こる何かを予感させる、そんな中間部です。 曲のクライマックスは、オルガン(パイプオルガンだったかも)のソロで始まります。 階段を一段ずつ上っていく様な音型で、緊張が高まった瞬間、冒頭の主題(バリトン・ソロだった部分)を朗々と、しかも力強く、今度は全員による斉唱(ユニゾン)で、再現します。
「Lord,Thou hast been our refuge from one generation to another. 」主よ、あなたは我らの避難所なり…
大相撲千秋楽、横綱同志の「相星決戦」に決着がつき、興奮冷めやらぬ中、「皆様、ご起立ください」の掛け声で、会場全体が君が代を斉唱する、あの雰囲気さながらと言っても良いでしょう。 このパワーアップされた、前半のリプライズ部分で、完全に私は、吹き飛ばされてしまいます。 こみ上げる物を我慢出来ません。 結びでは、バリトン、合唱団、オルガン(そして、オーケストラが追加された版もあります)が、一丸となり、ひときわ大きな弧を描くと、威厳を伴って曲を閉じます。 8分ほどの曲ですが、内容の詰まった、素晴らしい曲。 それ以来、このときの感動が忘れられず、日夜CDショップ、中古レコード屋を探し回りました。 しかし、結果は惨敗!どうしても見つからない。 他に探す手段がありません。
そもそも、ヴォーン=ウィリアムズの場合は、店の陳列スペースがあっても、せいぜい「グリーン・スリーヴスによる幻想曲」が入った管弦楽曲集か、一部の交響曲(ロンドン交響曲か、5番等)くらい。 宗教曲などは、皆無と言って良いでしょう。 それでも、辛抱強く探した結果、ついに努力が報われます。 大手輸入CDショップの、RVW(レイフ・ヴォーン=ウィリアムズの略称)のコーナーに、この曲が入ったCDを発見。 間違いありません。 実に10年以上に及ぶ歳月が経過しており、めげずに探した甲斐がありました。
この曲が、あまり知られていない理由として、
① 宗教曲である
② 本来は、教会で演奏
③ 編成が特殊
等が挙げられ、RVWの真価が正しく伝わらないもどかしさを感じます。
余談になりますが、結びの部分(曲の閉じ方)は、同じ宗教曲でもモンテヴェルディの『主を恐れる者は幸いなり』を彷彿とさせ、大変興味深いと感じました。 まだまだ、彼の作品の中には、見過ごされてしまっている曲が相当あります。 これからも、少しずつ紹介していきますので、機会があれば、是非一度は耳を傾けてください。
*参考ディスク*
モテット「主よ、あなたは我らの避難所なり」
マシュー・ベスト指揮
コリドン・シンガーズ
コリドン・オーケストラ
トーマス・アレン(バリトン)
以上 英国ハイペリオン盤
以下、NAXOSミュージックライブラリーから2つの配信があります
https://ml.naxos.jp/work/29437
- エローラ・シンガーズ - Elora Singers, The
- トマス・フィッチス - Thomas Fitches (オルガン)
- ノエル・エジソン - Noel Edison (指揮)
https://ml.naxos.jp/work/6833709
- クリストファー・ディーコン - Christopher Deacon (トランペット)
- ジェイムズ・シャーロック - James Sherlock (オルガン)
- ナイジェル・ショート - Nigel Short (指揮)