"TORU"のひとりごと(音の魔術師 ラヴェルの本当の凄さ)

「音の魔術師 ラヴェルの本当の凄さ」

タモリ倶楽部に出てくる「空耳アワー」をご存知ですか?私も大好きな番組の一つです。投稿者の駄洒落のセンスが問われるもので、お馴染みの洋楽曲のワンフレーズがバックに流れ、英語の歌詞の上にわざわざ、日本語の訳(?)が重なる…。この日本語の訳が単なる駄洒落で無茶苦茶。再現ドラマ仕立てのPVと相俟って、まさにナンセンスの極みです。言ってみれば、この番組の肝は、外国語が変な日本語に聴こえてしまう所にあります。理屈抜きで笑えて、好きな番組です。

前置きが長くなりました。この「空耳」に近い体験を目の前で鳴っている音楽で、つまり生のコンサート会場で一度だけしたことがあります。それは、5~6年ほど前、文京シビックホールで開かれた東京フィルハーモニーのコンサートでの出来事。指揮は、三ツ橋 敬子。当時最も「実演を聴きたい指揮者」ナンバーワンの人でした。メインは、「展覧会の絵」。それは、「バーバ・ヤガーの小屋」に入る直前に起きました。正確には、ブラスの和音連続の「カタコンブ」の後半に、「死せる言葉による死者への語りかけ」と呼ばれる静かな曲があります。ハープの分散和音の上にヴァイオリン等の高音弦のトレモロ。そして、木管の旋律が合わさります。教会のステンドグラスが目に浮かびます。「あぁもうすぐ、ノリノリのバーバ・ヤガーが来るな。」と気を抜いていると、どこからともなく、何人かの女声コーラス?(合唱団までいかない位の人数)が聴こえて来るじゃないですか!?音量は「ピアニッシモ」くらい、ハープと交代して音を長く伸ばし木管を補強、そして最後の小節は他のすべての楽器と重なっていました。そして、天井に昇る様に消えて行きました。呆気に取られた自分をその場に残しつつ、曲は次に進んで行きます。女声コーラスなど使っていない曲だと我に帰り、じゃあ、今のは何だったのだろう。もしかすると、楽譜に書かれていない音が人の錯覚で「鳴っている」のか!?それを承知で、ラヴェルはオーケストレーションしたのだとしたら…。何か、戦慄さえ覚えました。底知れぬラヴェルの本当の凄さ(実力)をまざまざと見せつけられた、そんな1日でした。残念ながら、その後は「展覧会の絵」の実演に接していません。レコードやCDには収まり切らない、実演ならではのエピソードとしてご紹介しておきます。

東フィルを指揮した三ツ橋 敬子