"TORU"のひとりごと(~ 森麻季さん その慈悲深き“まなざし”の先には ~)
日本の声楽界では、すでに重鎮と呼べる名ソプラノ、森麻季さん。
私が聴きに行ったのは、確か2016年の横浜みなとみらいホールでのコンサート。 その圧倒的な歌唱力と、幅広い表現力そして佇まい…。 どれもが、その日の曲目と共に、今も脳裏に焼き付いて離れません。
彼女の歌唱の素晴らしさは、
① 声に独特の「艶」
② 音の「しまい方」
にあると思います。
特に、消え入るように声が減衰していく様は、まるで、遙か彼方の地平線に、飛行機雲が吸い込まれて行くような印象すら感じます。
最近では、ブラウン管に映る彼女の表情、そして立ち居振る舞いにも感銘を受けました。 そこで、私が目撃した「事件?」を二つほど、備忘録(美貌録?)として書き留めます。
(ケースその①)
2019年、年末恒例のクラシック・イベント、東急ジルべスター・コンサート(生放送)での出来事。
第九の終楽章(ダイジェスト版)を、山田和樹さん指揮の東京フィルがそうそうたるソリストをバックに、演奏を開始。 その中に、森麻季さんがいて、第二部の冒頭からテノールが朗々とソロを歌い上げますよね。 カメラワークとしては、当然テノール歌手(工藤和真さん)の「アップ」な訳です。
その画面の左下の隅っこに、森麻季さんの表情まで映し出されました。 そんな彼女の視線は、紛れもなく、主役であるテナー歌手に注がれているのがわかります。 一切瞬きもせず、ただひたすら後輩の活躍ぶりを見守っている、”慈悲深き眼差し“。 「そうなのね。あなたは、そうやってこの曲と向き合って行くのね。」彼女のそんなつぶやきが聞こえてくるようです。 ふたりの間に位置する、アルトの方は、普通にしているため、余計に目立ちます。 後輩を気遣うような彼女の振る舞いに、拍手を送りたいです。
(ケースその②)
続いて、テレビ朝日の「題名のない音楽会」での1コマ。 若手中心の、新進気鋭のソリスト達で固めた、ドリーム・オーケストラを、やはり山田和樹さんが指揮する企画。ギタ-の村治佳織さん、チェロには宮田大さんをはじめ、いまをときめく錚々たるメンバー。 曲は、意外にも「ファイナルファンタジーⅧ」の挿入歌で、『Eyes On Me』。 ソプラノを森麻季さんが担当。 この日は、「アンコール特集」の回で、司会の石丸幹二さんも、「後半に向けての、圧倒的な歌唱力」と振り返ります。 穏やかに、語りかけるような曲調。 後半に向かうにつれ、徐々に熱を帯びて来ます。 演奏者ひとりひとりを、客席から俯瞰するようなカメラワーク…。 ソロを歌っている森麻季さんに、ズームしながら、カメラが移動しようとした次の瞬間、いきなりのカメラ目線での「微笑み返し」…。 不意打ちを喰らいました。 クラシック・コンサートの常識から外れた行動だからこそ、却ってこの曲の持つ「世界観」を表現出来ると、始めから計算していたのです(歌詩を読み返し、理解しました)。 やられました。 プロの並外れた根性を見せてくれた彼女に、もう一度拍手を…。
益々これからも、彼女の活躍から目が離せません。