TORUのひとりごと(~ 郷愁を誘うメロディの数々 〜 ヴォーン・ウィリアムズの世界⑤)

~ 映画音楽編 『潜水艦轟沈す』より 前奏曲 ~

これまで紹介した、ヴォーン・ウィリアムズの『おすすめ曲』を簡単に振り返ります。

①「イギリス民謡組曲」

吹奏楽コンクールでは、ホルストの「組曲1、2番」と並び、人気、知名度とも抜群のレパートリー!
鄙びたイギリス民謡の数々が、軍楽隊のリズムに乗って「行進」して行きます。

② モテット「主よ、あなたは我らの避難所なり」

地味な作風で知られる彼の作品。 「もっともマイナー」ながら、「もっとも感銘を受けた」曲かもしれません。

彼が書いた宗教曲には、同じ様に大オーケストラとパイプオルガンをバックに歌われる、スケール大きな「カルミナ・ブラーナ級」の作品群が、まだまだ控えています。

そして今回紹介する第三弾は、珍しく映画の「サウンドトラック」から。

~ 1940年イギリス映画 「潜水艦轟沈す」より 前奏曲 ~

冒頭「さあ、映画が始まりますよ!」の合図とともに、幕が開きます。 『レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams以下RVWと表記)節』がもう既に全開です!!
どこか懐かしい「民謡風主題」が弦楽器主体で現れ、まるで眼前にタイトルロールが流れて行くようです。
わずか3分弱の短い曲ながら、良いところがギュッと詰まったこの主題は、必然とも言える「高み」へと到達。曲が閉じられます。
ラスト何十秒かの『内声部』の動きにも、一聴してRVWのそれと分かる「エッセンス」が散りばめられています。
戦時下の英国政府が、「国威発揚」の映画を作らせ、音楽を国民的大作曲家RVWに託している点、大いに注目したいところです。
映画自体も知られる事はまず無いだけに、彼の「映画音楽作曲家」の側面も、ぜひ知っていただきたい、そう思い筆を執りました。

CDの紹介です。

(1)モートン・グールド指揮 ロンドン交響楽団 1978年録音(デジタル録音,アメリカ ヴァレ-ズサラバンド)
「シンフォニック・ムービーテーマ」と言うアルバムに収録。 大御所A.ニューマン作曲の「大空港のテーマ」狙いで購入したもの。 たまに聴く程度の埋もれたCDが、40年の時を経てまさかの脚光(ごく私的な)を浴びています。 単なるカップリング曲の枠を超えたRVWの「精華」を、大切にしなくては。
他に、モートン・グールド自作の「大西洋二万哩」をはじめ、コープランド、ブリス、ウォルトンとクラシックの作曲家書き下ろしの映画音楽ばかりを収めたもの。どれも時代を感じさせるが、傑作ばかり。

(2)アンドリュー・ペニー指揮 ラジオテレビジョンコンサートオーケストラ
1993年録音(デジタル録音,ナクソス系列マルコポーロ)

https://ml.naxos.jp/album/8.573658


「ヴォーン・ウィリアムズ 映画音楽集」
という意欲的なアルバム。 全4曲収録。 モートン・グールドに比べ、より穏健派の演奏。他の3曲を含め、曲の性格上この先も競合盤が出て来る確率が低い貴重な録音であり、1ファンとしては拝みたくなる演奏(「ダブリン」のオーケストラらしい)。

(3)ザ・ベスト・オブ・ヴォーン・ウィリアムズ(デジタル録音,ナクソス)

https://ml.naxos.jp/album/8.556835

RVWの音楽の聴き所がぎっしり詰まった、企画モノの1枚。 オーケストラ曲が中心かと思いきや、しっかり歌曲が入っている!のは良心的。
「リンデン・リー」、「静かな昼下がり」の2曲。 因みに、映画「潜水艦轟沈す」を、このCDの帯では「北緯49度」と、原題をそのまま邦訳して紹介しています。

最後に、(3)の紹介CDの「たすき」に書かれたコピーが、RVWの音楽の特徴を的確に表した極めて素晴らしい文章なので、一部引用させてもらいます。
『のどかな田園風景から敬虔なる大聖堂、そして映画音楽を思わせる豊かな響き。 それらを全て持ち合わせたイギリスの国民的作曲家、ヴォーン・ウィリアムズ。~中略~押しつけがましさは一切ないのに、いつの間にか心に棲みついている・・・そんなさりげなさが愛おしい音楽の数々をどうぞお楽しみください。』