「35mm磁気フィルム録音」から
ステレオ録音が軌道に乗り始めた1960年代前後を境にオーディオ・マニアも視野に入れた驚異的なステレオ再生レコードが市場を賑わすようになった。 そのひとつにアメリカの「エヴェレスト(EVEREST)」レーベルがあった。 登場する指揮者もレオポルド・ストコフスキー、ウィリアム・スタインバーグ、ユージン・グーセンス、マルコム・サージェント等々の名前が並ぶ。 ところで「35mm磁気フィルム・レコーディング」とはその名の通り映画で使用される35mmフィルム全面に磁性体を塗布した録音テープを使用して録音する方式である(Westrex 社製録音再生機 、写真4)。 通常の録音テープは6.3mmに対して映画用フィルムは35mmとその幅の広さが必然的にステレオ録音に有利に働くことは云うまでもないことである。 従ってダイナミック・レンジの広さ、テープに比較して厚みもフィルムは3倍余りあるため転写によるゴーストも極めて少ない利点があった。 この方式による「エヴェレスト盤」の初出LPは1959年にリリースされたストコフスキー指揮ニューヨーク・スタジアム交響楽団によるチャイコフスキー「フランチェスカ・ダ・リミニ」・「ハムレット」(1958年録音)であった。 写真1は1987年に復刻CD化された「英Dell’Arte盤」ジャケットと演奏データである。 このシリーズの中で発売当時も大変注目を集めた1枚、トッシー・スピヴァコフスキー(ヴァイオリン)、タウノ・ハンニカイネン指揮ロンドン交響楽団による1959年録音のシベリウス「ヴァイオリン協奏曲」・交響詩「タピオラ」は優秀録音と共に演奏もピカ一である(写真2 英EVEREST盤LPジャケット・SDBR-3045)。 尚、ジャケットデザインは異なるがレコード番号は米国オリジナル盤と同一である。 またこの録音方式は米国のコマンド(Command)やマーキュリー(Mercury)レーベルも採用し人気を得た。 写真3は国内盤「キング・レコード」が1962年にリリースしたウィリアム・スタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団によるラフマニノフ「交響曲第2番」LPジャケットで大胆なカットがある演奏だがこの時代の国内盤レコードはほぼなかったと思われるので大変貴重だった。