フィレンツェでの「幻のコンサート」
フィレンツェでの「幻のコンサート」
1977年4月、フィレンツェにて
1977年のゴールデン・ウィーク、私がイタリアの花の都「フィレンツェ」を訪れた時の話である。古都フィレンツェのシンボルで世界遺産でもある「花の聖母寺(ドゥオモ)」はじめとして見どころも大変豊富な街である。(写真1 ドゥオモ、正式名称、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂、筆者撮影)この地で有名なオケと云えば「フィレンツェ五月音楽祭管弦団」が頭に浮かぶ。でもタイミングが悪く巡り合わなかった。諦めかけていたところ滞在ホテル・ロビーの掲示板に今晩(4月30日)「Orchestra Aidem di Firenze」というオケのコンサートが「シニョーリア広場」(写真2 筆者撮影)にあるヴェッキオ宮殿(写真3 筆者撮影)で開催されるというポスターが目に留まった。もちろん当時の私はこのオケの名前を知る由しも、なかったが興味津々行ってみることにした。コンサートの開始時刻は午後9時と遅かったがこの時期ヨーロッパはすでに夏時間、日没も午後8時をゆうにまわる。私はゆっくりと夕食をすませ会場のヴェッキオ宮殿のホールに向かった。本日のプログラムはドメニコ・チマローザ 歌劇「秘密の結婚」序曲、モーツアルト「交響曲第38番ニ長調<プラハ>、休憩をはさみベートーヴェン「交響曲第4番変ロ長調」という構成である。指揮はギアン・パオロ・サンツォーニョ(Gian Paolo Sanzogno)。後にインターネットで調べてみるとこの方はイタリア各地、特に当時はこのトスカーナ地方の歌劇場で活躍していた指揮者であることが判明した。(写真4 コンサート・プログラム表紙/写真5 演奏曲目)
さて問題はここからである。会場に入りいよいよコンサート開始時刻の午後9時になった。しかし楽員たちが舞台に一向に登場してこない。時間も30分ぐらいは経過しただろうか。聴衆もざわつきはじめた。ようやくイタリア語のアナウンスが入り今晩の演奏会はやむなく中止とのことらしい。理由は楽員たちのストライキが長引くとのことのようだ。時刻も午後10時近くになり私も諦め会場を後にした。この出来事は私にとって「幻のコンサート」として今も頭の中に残っている。