"T0RU"のひとりごと(~ 郷愁を誘うメロディの数々 〜 ヴォーン・ウィリアムズの世界③)

~ 郷愁を誘うメロディの数々 〜 ヴォーン=ウィリアムズの世界③ 〜

ー とっておき お勧め名曲ベスト10(その1)ー

これまでの()ヴォーン=ウィリアムズの曲の特徴を、振り返ります。

(1)まるで霧が立ちこめた様な音楽 ➡ユニゾン(同じ高さの音を、色々な楽器や声を重ねて演奏する)をよく使うため。

(2)西洋のクラシック音楽ながら、他とは一線を画す節回し
➡日本の民謡、演歌、唱歌、歌謡曲にもかなり近い。 特有の五音音階(ファとシが無い)がよく出てくる。 五音音階の代表曲を挙げると、「蛍の光」等のスコットランド民謡、米津玄師「パプリカ」、平原綾香「ジュピター」、「家路」他 多数。

(3) メロディーは、緩やかでどこにでもありそうな(失礼!)素朴なものが多く、時には子守唄を聴くような落ち着いた曲調。

さて、前置きはここまでにして、曲の紹介です。

数あるお薦め曲のうち、トップバッターは、

「イギリス民謡組曲」

吹奏楽(ウィンド・アンサンブル)のために書かれた名曲。 この分野で他には、「星条旗よ永遠なれ」、「双頭の鷲の旗の下に」などが特に有名ですよね。 これらに勝るとも劣らない、イギリスを代表するに相応しい傑作と言えます。
(第一楽章)
軍楽隊調の行進曲で始まりますが、すぐにフルートやクラリネットに民謡主題が現れます。 「懐かしさと切なさが同居する」このテーマは一度聴いたら頭から離れませんでした。 「日曜日には17才」と言うイングランド民謡を、ほぼ剥きだしで原曲のまま使っています。 素材が本来持っている「良さ」をストレートに伝えたいと言う、ヴォーン=ウィリアムズの心意気を感じます!
再び威勢の良い行進曲となります。 トロンボーンとチューバが堂々と行進していく中、木管楽器群が細かい動きで寄り添い、脇役に回ったトランペットが「タラタ タッタタ」と、絶妙な合いの手を入れます。 まるで日本民謡の「あ~ァ、それからどした~!!」に、聞こえてしょうがないのです。

(第二楽章)
ゆったりと落ち着いた楽章です。
深々とした前奏に続き、これまで目立たなかったオーボエが、連綿と歌いあげます。 中間部は、少し速くなり8分の6拍子。 「拍」の頭のトライアングルが絶妙!しみじみとした民謡の主題をグッと引き立てます。

(第三楽章)
三つの楽章のうち、最も聴きやすいかも知れません。 心が浮き立つような民謡の主題が、次から次へとリレー形式で受け継がれます。 コンパクトにまとまった楽章は、後味も爽やかに全曲を締めくくります。

中学・高校時代に吹奏楽部にいた方なら、きっと演奏経験があるはず。 このジャンルでは「定番中の定番」ですが、私は大学生になって初めてこの曲にめぐり逢いました。 この曲の持つシンプルで、味わいのある、不思議な魅力に取り憑かれた私は、より一層彼の作品を知りたくなりました。 森の中を「分け入る」と、自分が入り口付近に立っています。 その先には色とりどりの花々が集落を取り囲み、慎ましやかな日常を送る村人の姿も。 その視線の先には、緩やかな海岸線が広がっているようにも見えますが、樹木や家々と重なって見渡す事ができません。 森の中を、ぜひご一緒に散策してみませんか?

(お薦め盤)
① フレデリック・フェネル指揮 クリーヴランド管弦楽団管楽セクション(テラーク盤)
巨匠フェネルの至芸。 幾度となく演奏してきた、凄みすら感じる。 カップリングも秀逸! ヴォーン・ウィリアムズの小曲「海の歌」がまた泣ける。

 

② フレデリック・フェネル指揮 東京佼成ウィンドオーケストラ(佼成出版社盤)
①より、10年後の演奏。 甲乙つけがたい素晴らしさ。

 

そして、番外編。(ヴォーン・ウィリアムズの門下生に当たる、ゴードン・ジェイコブが管弦楽用に編曲しています)

③ エードリアン・ボールト指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウェストミンスター原盤の国内盤)

オリジナルに極めて忠実な、見事な編曲と演奏。 とりわけ、第一楽章のテーマの歌わせ方。 作曲者との交流がなせる技。