kenのひとりごと(モーツァルト:ディヴェルティメントニ長調K136)

モーツァルトのディヴェルティメントニ長調K.136は学生時代にヴィオラでよく弾いていた曲です。 音楽的には難しいのだと思いますが、とくに伴奏系の楽器(ここではヴィオラ、チェロ、コントラバス)では技術的に弾きやすい、初心者に嬉しい名曲です(ヴァイオリンの演奏は大変だと思います)。 とくに第1楽章は式典やお祝いの席などで披露されることが多いのでよく知られています。 第2楽章も、1990年代にサイトウ・キネン・オーケストラがコンサートのアンコールでよく演奏したため、知られるようになりました。 私が所属していた学生オーケストラで演奏が流行ったのも、サイトウ・キネンの影響かもしれません。

この曲には何かと思い出が多いのですが、この曲の魅力を知ったのはカラヤンのベルリン・フィルとの演奏でした(写真1)。 ディヴェルティメントは少人数での演奏、大人数での演奏と好みが分かれるかもしれません。 もともとモーツァルトはこの曲を四重奏とコントラバスの編成で作曲したとの説もあるようですが、大小の編成にはそれぞれの良さがあるように思います。 カラヤンの演奏は少人数で弾いているとは思えない音の厚みと疾走感が魅力です。 スイスのサンモリッツでの休暇中の演奏で、カラヤンも団員もリラックスしていたのかもしれません。 この演奏を聴くたび、私も心身ともにリフレッシュします。

年明けに、LPでエリアフ・インバルとラマ・ガン室内管弦楽団の演奏を聴きました(写真2)。 ラマ・ガン室内管弦楽団はイスラエルの名門オケで、長くインバルが指揮者を務めていました。 インバルのモーツァルトはあまり知られていませんが、様々なオーケストラでモーツァルトを積極的に取り上げていて、このK.136も一度聴くと癖になる演奏です。 音符一つ一つを主張させる楷書書きの演奏でありながら、軽快に流れます。 二律背反を見事に実現した演奏だと思います。 こうした演奏の特徴はk.136だから生きるのか、続くK.137やK.138はあまりぱっとしない印象です(最後に収録されている「アダージョとフーガ」K.546は秀逸だと思いますが)。 しかし、さすが「イスラエルの弦」。 すべてで弦の上手さが光ります。

そうしたなか、2月9日に小澤征爾さんの訃報に接して、久しぶりにサイトウ・キネンのK.136を聴きました(写真3)。 実に丁寧で、どのような人をも和ませる、奏者一人ひとりの思いが詰まった温かい演奏です。 小澤さんによると「斎藤秀雄先生(小澤征爾らの師匠)が車椅子に座って最後に演奏したのがK.136。 “縦”を揃えることにこだわっていた(斎藤)先生が最後の最後に“横”の演奏をした」とのこと。
インバル、カラヤン、小澤のK.136は、“縦”と“横”の視点で聴いても、それぞれに魅力的です。

写真1     カラヤン/ベルリン・フィル(グラモフォンPOCG-2095)

 

写真2   インバル/ラマ・ガン室内管弦楽団(シンクロ・ステレオSMS-2435)

 

写真3     小澤/サイトウ・キネン・オーケストラ(デッカUCCD-90234)