"fumi"のひとりごと(五味康祐のオーディオで聴くレコードコンサート)

オーディオにロマンを感じた10代のころ、装置は買えないがオーディオ雑誌ステレオサウンドは買えた。 瀬川冬樹や菅野沖彦らの個性あふれる評論のなかで一際異彩を放ったのが五味康祐(1921〜1980、芥川賞作家にして時代小説家)の「オーディオ巡礼」だった。 理論的に納得できる高城重躬の原音再生論に対し感覚に訴える五味康祐の主張は心打つものがあった。 今でも「西方の音」「西方の音-天の聲-」「ベートーヴェンと蓄音機」「オーディオ巡礼」「オーディオ遍歴」などを取り出し読むことがある。 当時はFM放送受信もままならぬ田舎で数少ないレコードを聴きながらこの世にはとてつもなく素晴らしい音楽を奏でる装置が存在するのだと思ったものだ。 五味が亡くなってもう38年になる。 CDが発売されたのが1982年だから五味康祐や瀬川冬樹はCDを知らずにこの世を去っている。 五味が残した遺稿にはPCM録音に対する期待が書いてあった。 特性の改善が音質の改善には必ずしも繋がらないとした彼はCDの音を受け入れただろうか。
五味亡き後、使用していたオーディオ装置は10年前に住んでいた練馬区に譲渡され、区は石神井公園ふるさと文化館分室に試聴室を設置して平成26年より月1回のレコードコンサートを開催している。 人気が高いようで何回かの落選の後、漸く抽選が当たって「初恋の人」に会うが如く出かけることとなった。
試聴室となりの「五味康祐資料展示室」には愛用していたFMエアチェックに用いたオープンリールテープレコーダー スチューダC37とテレフンケンマグネットホーン28それにルヴォックスA700、KT66を使用した英国製アンプのクオードII、高城重躬のオールホーンシステムより音が良いとしたテレフンケンS8コンソール、オルトフォンSPUやEMTのカートリッジそして五味が試聴の際に使用していた大きな革張りの椅子が鎮座していた。10代の頃に恋い焦がれた装置の数々がそこにはあった。
さて、レコードコンサートが始まる。 「オーディオの神様」と呼ばれた五味康祐が行き着いた装置である。 これらは長く修復を重ねてオリジナルの部品を使い、完動するようにしたとの説明があった。 McIntoshのアンプはエレクトリで調整さたとのこと。 AUTOGRAPH など50年以上を経ているのに窶れもなく外観を見る限り素晴らしい状態であると感じた。

LPレコードプレーヤー:EMT 930ST
カートリッジ:EMT TSD-15
プリアンプ:McIntosh C-22
メインアンプ:McIntosh MC-275
スピーカー:TANNOY  GRF  AUTOGRAPH 1964年製(モニターレッド)

使用されたレコードは五味康祐も愛聴したという「ローラ・ボベスコ(Vn)」と「ジネット・ヌヴー(Vn)」によるヴァイオリン・ソナタを中心とする選曲であった。 その芳醇な音との出会いに「これが憧れの装置が奏でる音」と感慨に耽った。 一方で「初恋の人」の晩年を見るようなところも正直感じた。 五味の愛したワーグナーも聴いてみたいのでまた応募したいと思っている。(fumi)

1964年製のタンノイ オートグラフで使用ユニットはモニターレッド

左下がマッキントッシュMC275、その上がプリアンプのマッキントッシュC-22である。 右下はマランツ8Bだが五味特注で普通はUL接続のところを3結接続にした特別仕様になっているとのこと。

五味が家具職人に作らせた特注品、左がタンノイ モニターブラック(1950年代)、右がモニターシルバー(1960年代)がセットされているとのこと。 モノラル時代に使用していたユニットを活用したのではないかと思われる。

左下がマッキントッシュを使用する前に使っていた英国製クオードIIアンプ、右上は使用カートリッジの数々

FMエアチェックに使われたテープレコーダー テレフンケン マグネットホーン28(右)とルヴォックスA700(左)