アマリア・ロドリゲス ‐Uma Casa  Portoguesa ‐

あと千回のクラシック音盤リスニング(9)


〜トラベル・オーディオとファド〜


アマリア・ロドリゲス ‐Uma Casa  Portoguesa
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久しぶりに海外出張の依頼が入った。 2年ほど前に2度、ラオスへの出張予定が入っていたのであるが、コロナのためにキャンセルとなった。 かってのフランス語圏、また初めての国なので、楽しみにしていたのであるが。
今回はミャンマーである。 ここは過去3度出向いているので、馴染みの国ではあるのだが、コロナに加えて政情不安の問題が付き纏う。 しかし、既に3週間が経った。
さて、今回はマレーシア航空で、成田を発ってクアラルンプール(KL)着、空港内のホテルで1泊。 この空港はかって南回りで英国に行った際、トランジットで10時間近く時間潰しをしたことがある。 当時は巨大なサーカス小屋のイメージであったが、近代的な大空港に変身していた。
今回はビジネス・クラス、成田のラウンジでゆっくりワインでも飲んで発とうかと目論んでいたのだが、マレーシア空港のカウンターで思わぬトラブルが。 ミャンマーに入国するのは極めて難しいので、書類が完備しているかをチェックするというのである。 これは公用出張なのだと抗議しても、各書類について電話をかけまくったり、コピーを取ったり、時間はどんどん経ってゆく。 ようやく終わったら、もうラウンジに行ってもすぐ出ないといけない時間となり、独りぶつぶつ言いながらゲートに移動した。
KLではかって食したタイ料理レストランが美味しかったので、再トライしたのであるが、イメージ通りの店が見つかったものの、ビールは出さないという。 結局、ビールにありつくため、国籍不明の料理を食することとなった。 食事時に酒を出さないような国にはもう行きたくない。
泊まったホテルは早朝チェックアウト、4時間ほど時間を潰さなくてはならないが、空港のラウンジが使えるので、ゆったりとビールを飲みながら本でも読むかと勇んで移動した。 ラウンジのレセプションもラウンジの空間も広々として清潔、すぐに手作りオムレツやチキン・ヌードルのコーナーを見つけ、幸先良い出だしだと安心したのであるが、またハードルが用意されていた。 肝心の酒のコーナーが見つからないのである。おかしいなと案内に尋ねると、バーは7時AMからだという。 これはそんな早朝からビールを飲ませろという側が間違っているのかもしれないが、どこの空港のラウンジだって、24時間ビールはおろか、ウイスキーもコニャックも堂々と並べてある。
ようやく7時が訪れ、隔離したようなバーに行くと先客が5,6人並んでいた。 皆、日本人である。 これにも驚いた。 私はカールスバーグとコニャックを確保し、ようやく落ち着いた。
次がKL—ヤンゴンの便である。 一応国際便なので、ビールくらいは間違いなくありつけるだろうと予測し、飲み物のリクエストでビールを、と言ったら、ソフト・ドリンクしか出せないと言う。 斜め後ろの英国人もビールをと言っていたが、同様に拒否される。 やけくそでコーヒーを選択した。 次に大きな紙製の立派なBOXが配られた。 なかなか開かないが、ようやく開いたら、その玉手箱から出て来たのはクッキー、キャンディーの類が数種類。 子供じゃあるまいし、全く嬉しくない。 タイ航空では同じく1時間ちょっとの国際便ではあっても、立派な料理とワインが供された。 タイ航空が懐かしかった。
以上、アル中男の愚痴のオン・パレードと取られてもいたしかたないのであるが、ヤンゴンに着いてからは状況が逆転した。 何でも手に入り、飲めるのである。
かって、ミャンマーではミャンマー・ビールくらいしか飲めなかった。 このビールは美味いと思っていたが、これはキリンの技術が入っていたかららしい。 しかし、現在、このビールは軍が管理しているらしく、ヤンゴン市内では市民の不買運動でスーパーやコンビニで見つけるのは困難。 しかし、心配はない、カールスバーグ、TUBORG、タイガー、Changなどなど。 ウイスキーもミャンマー国産からスコッチ、バーボン、ジャパニーズ、アイラ島のシングルモルトも簡単に手に入る。 値段を見たら仰天ではあるが日本酒も。 そもそも恐る恐るヤンゴンで暮らし始めたにもかかわらず、ジャパニーズ居酒屋が数軒、いやもっとあるらしいのだが、2度ほど出かけた。
仕事は着いてすぐにシャン州というタイ国境での調査から始まった。 最初から非常にエキサイティングな調査結果を得て一安心し、さらに上は農業省から下はJICAのプロジェクトが対象としている村まで講演や講義でさすがに疲労蓄積の状態である。
ここでようやく音楽に辿り着く。 かってはこのような出張パターンで、訪れた国の数は40に達している。 これがウィーン出張、ニューヨーク出張というようなものであれば、夜は国立歌劇場とかメトロポリタンのプログラムを見てそわそわするかもしれないが、国際会議や国際学会を除いては、大半が途上国なので、ホテルやゲストハウスでオーディオを通して聴く音楽となる。
1986年、最初の国際稲研究所(IRRI, フィリピン)滞在ではゲストハウスのテラスで熱帯植物を眺めながらビール(フィリピン産サンミゲル)を楽しんだ。 その折持参したのはソニーのWM-6C、所謂ウオークマン・プロフェショナル、それにヘッドフォンのコンビであった。 これでカセット・テープにコピーした10数本のクラシック音楽と西田佐知子のテープを聴いていた。
翌年、タイ経由でフィリピンに行った際、バンコックのデパートでフィリップスの小型のアクティブ・スピーカーを購入した。 安かったが、音は歪みだらけでひどい音だった。 フィリップスともあろうものがこんな粗悪品を売るのかという小さな怒りもあったが、一方でヘッドフォンでは味わえない音空間に驚いた。 こんな小さなスピーカーでも音の質を上げて行けば素晴らしい世界が開けるのではという期待が生まれた。
その翌年、出発前日に秋葉原に行ってデンオンのアクティブ型のSC30という超小型スピーカーを購入した。 期待してたほどではなかったが、聴けない音ではなかった。またシンガポール経由で数か国回るような出張も入り、シンガポールではDGやDECCA、EMIの正規のカセット・テープを多数手に入れることが出来た。 中でジュリーニ=VPOによるブラームス第四交響曲は帰国後もワーゲンのNakamichiのカーステレオで常聴のソフトとなり、ついにお釈迦となった。
こうして、年毎に海外出張用のオーディオは進化を重ねて行った。
今回久しぶりにこの国ミャンマーを訪れて、驚いたのはやはり国としての発展である。
かって、今の首都ネピドー近くのイエジンの研究所のゲストハウスに泊まっていた。 夜は電気も来ず、車の音なども聞こえず、時折トッケや虫などの鳴き声が聞こえる以外、全くの静寂だった。 そこで、MDプレーヤーとパッシブ型の小型スピーカーで音楽を聴いていた。 アンプを通さない音はかそけき音に違いないのだが、驚くほど純粋で弦の音なども美しく、別の世界が開けるようだった。 その静寂の極みに呼応して、ヒトの聴覚も研ぎ澄まされるようだ。
今イエジンは首都圏で、超豪華なホテルがいくつもあり、レストラン街も中華、日本食、イタリアンとインターナショナルである。 道路は高速が走り、首都圏では片側6車線というところも多い。
先週泊まったホテルなど超豪華、自分がこの国いるのが信じられないほどだった。 ヤンゴンの宿もプール付き、空間が広く天井が高く、それ相応のオーディオを用意して来なかったのが悔やまれる。 いや、一応、出発前に時間を作って数種類のシステムを比較試聴したのである。 しかし、面倒になって、いやそれどころではなくなって、とりあえず2セットを用意した。 いや、2セットと言えるようなものでもなく、一つがB&OのBluetooth対応のBeoPlay A2というランチボックスのようなスピーカー、もう一つがSonyのSRS-Z1という小型アンプと金属製エンクロージャーの小型スピーカーのセットである。
 ところがリビングにセットして大チョンボに気づいた。Sonyのアンプ用のACアダプターが見つからないのである。 スーツケースに入れ忘れたらしい。 で、こちらに来て、こんなもの簡単に入手できると考えていたが、Sonyの代理店では高級TVとか、そういうものしか置いておらず、こちらの秋葉原のようなところに行ってもすべて12V仕様。 本来9V 仕様なのであるが、6Vでも駆動可は確認しているので、どこでも簡単に手に入りそうなものだが、入手不可で歯がゆい思いをしている。
駆動系はウオークマン(デジタルプレーヤー)2台である。 補佐役としてPC及びHDDとUSBメモリー。
 なので、自動的にA2 BeoPLayの選択となるのだが、周囲では絶賛のスピーカーではあるものの、私には今一の存在である。 一つには中高域にやや粗いところがあり、弦が麗しく響かない。 エージングで解決するかと思ったが、依然として変化がない。もう一点が形状である。 ある女性グループに見せたら、「超オシャレ!」と歓声が湧いたのだが、やはりスピーカー・ユニットは間隔を空けて前を向いていてほしい。 また、当然のことながら音場が変である、モノーラルを少し広げたような。 しかし、贅沢は言えない。
 それで、何を聴いているかというと気分によりけりで雑多なメニューである。 とはいうものの、ブラームスの第二シンフォニーを何故かやたらと聴きたくなる衝動にかられる。 ところが、ウォークマンは2台持参したのにもかかわらず、どちらにも入っていない。 PC、USBメモリー、さらにHDDまで探したが見つからない。
 それで、ここでは代わりにブラームスとは縁もゆかりもない世界なのであるが、アマリア=ロドリゲスの唄に再び嵌っている。 ファドの歌姫である。
歌姫は所謂美しい声であってはならない。 マリア=カラス、美空ひばり、ペリタ=コラリス、皆表面的な美声ではない。 強く、大きな表現力が必要なのである。 天才と彼女たちの不遇なバックグラウンドが必須なのである。 テレサ=テンだって、中国語で歌う時には、甘ったるい日本用の歌唱ではなく、毅然とした、大きな歌唱に変身する。
 私にはもうぜひ行ってみたい国は数少なくなってきたが、ポルトガルには何とかして行ってみたい。 ファドがライブで聴ける店でゆったりと時間を過ごしたい。 観光客相手ではない、薄暗い、一見さびれたような、しかしいいファドが聴ける店でイワシの炭火焼を肴に安い白ワインを飲みながら、海に男を送り出す暗い艶歌を聴いてみたい。
このファドに見せられたのはカナダのシャーロットタウンで植物病原細菌の国際学会が開かれた折、帰途ニューヨークでSam Goodyに寄った折、偶然アマリア=ロドリゲスのCDを数枚見つけ、それを聴き始めてからである。
この2枚組のCDはその中の一つで、彼女の1945年録音のSP復刻盤と1990年のニューヨークのタウン・ホールでのライブ録音盤から成る。
「暗いはしけ」のような有名な曲もよいが、すべてが素晴らしい。 今、そのCDが手元になく、あの曲がどのタイトルか判然としないのであるが、とくに暗い「哀しみ」の表現が素晴らしい。 また、伴奏のギターラの音と表現が、歌なしでも聴きたいほどに魅力的である。 映像で見ると丸い形である。 ニューヨークのタウン・ホールでのコンサート、イントロのギターラ合奏のパフォーマンスなんて、単独でも聴きたくなるほどいい。 「哀しみの粒子」が舞い上がり、降り注ぐような。その粒子が「えぐさ」を含んで、単に美しく輝く情景ではないような。 何というか、それらの粒子が将来の運命を暗示しているような。
ただ、タウン・ホールでのコンサートはさすがに峠を過ぎていて、声そのものの魅力が足りないし、エンターテインメント的要素が強い。
音楽はこの辺にして、また来週はシャン州への国内出張が入っている。 ここへは往復プロペラ機である。 私は飛行機が嫌いである。 前回も乱気流で結構揺れた。
数字にこだわる私に、ホテルが振ってくれたのは「626号室」である。 かのモーツアルトの最後の作品「レクイエム」のケッヘル番号である。 よくもこんな番号を!
この番号に加えて、暗い「ファド」、いやな予感がするが、運命はどうしようもない。
なので、今夜もお神酒を上げながら、早くブラームスの第二が聴ける日が来ることを祈ろう。

 

今回のミャンマー出張用に用意したオーディオ

奥がB&O BeoPLay A2、手前がSony SRS-Z1。Sonyのセットでは箱庭的な音場が展開し、普段接しているオーディオとはまた違った面白みを期待していたのだが、ACアダプターを置いてくるとは、である。BeoPlay A2では音場改善のためにコーナーにセットしたが、やはり違和感はぬぐえない。 結論として、トラベル・オーディオは“Better than nothing”の世界である。