ハインツ・ワルベルク指揮ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団

シューベルト:交響曲第7番ロ短調D.759「未完成」
                  (1985.10.14 五反田・簡易保険ホール)
ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調op.67「運命」
                  (1985.10.13 五反田・簡易保険ホール)

N響への客演で親しまれてきた指揮者といえば、古くはロヴロ・フォン・マタチッチ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、オトマール・スウィトナー、ホルスト・シュタイン等が思い出されるが、1966年に初登場、2004年まで共演を重ねたハインツ・ワルベルクも忘れてはならない指揮者のひとりだ。日本ではN響以外では聴く機会が少なかったが、海外オーケストラとは、1975年にウィーン交響楽団(ジュリーニと同行)、1985年にウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団を率いて来日している。今回は1985年にウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団と来日した折の演奏をご紹介したいと思う。ワルベルクは1964年から1975年までこのオーケストラの首席指揮者を努めていたが、退任後も蜜な関係を築いていたようだ。現在は、わが国の佐渡裕が首席指揮者を務めているオーケストラである。なお、1985年の公演では、ワルベルクの他にクルト・ヴェス、日本の抜井厚、ピアノのルドルフ・ブフヒンダーが同行し、秋田、神戸、山梨、島根など地方公演も含め、20公演に登る演奏会が行われている。

ハインツ・ワルベルク

ハインツ・ワルベルクは1923年ドイツ西部のヴェストファーレン、ハムで生まれ、2004年エッセンで亡くなったドイツの名指揮者で、アウクスブルク歌劇場音楽監督、ブレーメン劇場音楽総監督、ヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場音楽総監督、エッセン歌劇場総監督を歴任、歌劇場叩き上げの指揮者だったが、その間、1964年-1975年までウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団首席指揮者、1975年-1982年までミュンヘン放送管弦楽団首席指揮者も歴任している。NHK交響楽団には亡くなる2004年まで、38年間客演を続けていた。

 

 

ハインツ・ワルベルク

1985年の来日公演では、この指揮者の実力のほどが伝わる素晴らしい演奏を聴く事が出来る。シューベルトの「未完成」は、速くもなく、遅くもなく、中庸のテンポで進み、自然体の心地良い流れを作っている。美しい旋律を浮き立たせながらロマン性を引き出し、ドラマティックな高揚感は、この作品の悲劇性をも見事に表現している。ベートーヴェンの「運命」は第1楽章からゆったりとしたテンポを取りながらじっくり聴かせ、骨太で、きりりと引き締まった響きは、これが伝統あるドイツ音楽の神髄だ、と思わせる。第2楽章のロマンティックな旋律は豊潤に歌い、力感溢れる堂々たるフィナーレも説得力があって、緊張感に溢れた演奏である。この年の公演では、ワルベルクはこの他に、ヨハン・シュトラウスの「ジプシー男爵」序曲やワルツ、スッペの「軽騎兵」序曲、レハールの「金と銀」といった曲を演奏、こちらも堂に入った名演奏であった。
ワルベルクという指揮者は、どうも過小評価されているように感じる。N響に38年間に渡って客演を続けながら、マタチッチをはじめ、冒頭で挙げた指揮者達が得た名誉指揮者の称号は与えられなかったという事も、それを物語っているように思う。N響とはブルックナー、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス等、ドイツ物を中心に素晴らしい演奏を幾つも残している。正規録音が少ないのが残念だが、多くの演奏が世に出る事を願いたい。

公演会場の五反田の簡易保険ホール