カール・ベームの3つの“グレート”
シューベルト:交響曲第8番ハ長調D.944“ザ・グレート”

① ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
          (1969.11.3 ブダペスト、エルケル劇場(写真1・2) - ブダペスト音楽週間から - )
② ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
          (1972.9.12 ベルリン・フィルハーモニーホール(写真3・4) - ベルリン芸術週間から - )
③ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
          (1977.6.19 聖カール・ボロメウス教会(写真5・6)- シューベルティアーデから - )

クラシック・ファンならば誰でも知っている20世紀を代表する大指揮者のひとり、カール・ベーム(1894—1981)。ベームと言えば、ハイドンからストラヴィンスキー、アイネムまで十分なレパートリーを持っていたが、その中心は、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブルックナー、ブラームス、リヒャルト・シュトラウスあたりだろうか。ベームの場合、同じ曲を何度も取り上げる傾向が強く、ベートーヴェンなら「第5番」、「第7番」、ブルックナーなら「第7番」、ブラームスなら「第1番」、「第2番」といった具合だが、中でもシューベルトの「第8番“ザ・グレート”」は最も演奏頻度の高い曲だったように思う。手元にあるライヴ音源だけでも7種類あり、そのどれもが名演と言っていい。今回はその中から、3種類の“グレート”をご紹介したいと思う。

この3種類の演奏時間を比較してみると、年を追うごとに長くなっているのが分かる。

① 第1楽章(13:34)/第2楽章(13:38)/第3楽章(10:16)/第4楽章(10:43)合計48:09
② 第1楽章(14:16)/第2楽章(13:54)/第3楽章(11:17)/第4楽章(11:23)合計50:50
③ 第1楽章(14:38)/第2楽章(14:42)/第3楽章(11:42)/第4楽章(12:06)合計53:08

約2分半ずつ長くなって行くわけだが、曲の解釈自体はさほど変わってはいない。開放的な金管群の鳴らし方、第1楽章、第4楽章のコーダに充分な“タメ”を取っている事などは、各演奏に共通している。特に第1楽章コーダの“タメ”の魅力は、あっさりと終わらせてしまう演奏が多い中、この作品が“グレート”と呼ばれる所以が分かるような堂々たるコーダを形成している。力強い表現と心地良いリズム感、間の取り方も絶妙で、無駄な響きを排した充実度の高い演奏である。この基本的なスタイルは、この曲の歌謡性、美しさ、壮大さ等、全てを表現し尽くしていると思う。さらに各演奏の特徴を挙げるとすれば、69年の演奏は、溌剌としたスピード感があり、凄まじい推進力を持った音楽運びは70年代に入ってからのベームとはまたひと味違った魅力を放っている。1972年の演奏はオーケストラがベリルン・フィルに変わると、冒頭のホルンの音色からして、その違いが良く分かる。ウィーン・フィルの柔らかさに比べ、硬めだが力強い。ずっしりと重厚なオーケストラの響きが特徴的。77年の演奏は演奏時間が最も長い分、ゆったりと大きく構えた音楽運びで、良く歌い、スケールが大きい。しかも教会の響きと相まって美しさも際立つている。
ベームは演奏会プログラムの前半にシューベルトの交響曲第2番を、後半に第8番“ザ・グレート”を置く事が多かった。第2番の魅力を教えてくれたのもベームだったが、これら“グレート”の演奏はこの作品の魅力を余すところなく伝えると同時に、ベームの魅力をも伝える貴重な録音となっている。

20世紀を代表する大指揮者カール・ベーム

写真1 ハンガリーの作曲家、エルケル・フェレンツの名を冠した素朴な佇まいのエルケル劇場

写真2 ブタペストのエルケル劇場内部

写真3 カラヤン・サーカスとも呼ばれるベルリン・フィルの本拠地、ベルリン・フィルハーモニーホール

写真4 収録されたベルリン・フィルハーモニーホールの内部

写真5 ウィーン市街にあるバロック建築の傑作の一つ、聖カール・ボロメウス教会

写真6 演奏会場の聖カール・ボロメウス教会の内部