• クラウディオ・アラウ その2

ドイツ人では無いのに高い評価を得ているベートーヴェンの演奏でアラウの本領は遺憾なく発揮されています。ここで「ドイツ人で無いのに」と古びた民族主義的な言い回しをしましたが、現在ではお笑いぐさな言い方だと思います。ベルリンでマルティン・クラウゼの指導を受け、尊敬する師の教えを貧欲に吸収したアラウは生まれなどに関係なく優れたベートーヴェンの楽曲の表現者となるのは当然の事の用な気がします。
*マルティン・クラウゼ(1853年~1918年ドイツ・ザクセン州生まれ)

ベートーヴェンの弟子カール・チェルニーはフランツ・リストの先生であり、クラウゼはリストに師事している。アラウはリストの孫弟子になる。クラウゼの演奏はSPレコード及びCDによる復刻盤で演奏を聴く事が出来る。シューベルト、メンデルスゾーン、シューマンのヴァイオリンソナタの伴奏等。
アラウのベートーヴェンのピアノソナタの演奏を聴いていると先に言いました様に鍵盤を底の底まで押し込んでいるのが聴こえて来ます。
初期のソナタを例えばヴィルヘルム・バックハウスは通過儀礼の様に弾いていると感じるところがあります(ベートーヴェンのソナタ全曲演奏を揃える為には初期のソナタも弾かなくてはならないと言うほどの意味で)。ところでアラウはバックハウスがあまり意味を見出していない初期のソナタに意味を与えているのです。ベートーヴェンがピアニスト、即効演奏の名人として作曲家人生をかけて造った若書きのソナタに真正面から向かう演奏はベートーヴェンの存在をアラウなる弾き手を通して教えられると言えるのではないでしょうか。ピアノソナタ第5番ハ短調 作品10の1の演奏を聴いてみるとアラウが如何に素晴らしい打鍵の出来るピアニストであるかが分かります。このベートーヴェンが生涯を通してこだわりを持ったであろうハ短調の調性で造られたソナタは同じハ短調の悲愴ソナタや最後の作品111ほど有名ではありませんが、その資質はまさにベートーヴェンそのものと言えます。アラウは深い幅広い音色を持って、過度な技巧に走ることなく(とかく若いベートーヴェンの作品は技巧の見せ場の様に扱われる場合が多いのではないかと思います)ベートーヴェンの若さゆえの未熟さに迫り、答えを見つけて提示してくれるのです。

ピアノソナタ第5番ハ短調作品10の1(http://ml.naxos.jp/work/4905089)アラウ(Pf)

その3に続く

クラウディオ・アラウ(Pf)

アラウによるベートーヴェンソナタ全集のLPジャケット