〜 ある昔話の寓話 〜
*これはフィクションです。 特定の人物、あるいは団体を指すものではありません。

昔々、あるところに、ある文学賞に選ばれた作家がおりました。 彼は最初ただ音楽が好きで音楽を聴くために手っ取り早く収入を当てに出来る作家の道に進んだのです。 そしてその通りにしてしまったのですからすごい才能と褒め称えないとなりません。
彼は音楽だけを聴いていればただの音楽好きの作家さんでいられたかもしれませんが、運命と欲が彼を変えたのです。 音楽を聴く手段であるはずのステレオ装置に入れ込んだ挙句に何の電子工学の知識も回路設計のノウハウも物理学の素養もないのにオーディオ評論に手を染め始めました。 周りに彼を重宝だとして使うオーディオ関係の出版社や業界の思惑が見事に一致してあちこちのステレオ装置に対して物申すようになったのです。
彼の言う事には新鮮な驚きや着眼点の面白さがありオーディオに興味のある読者から尊敬と信頼を得るようになっていきました。 何よりもさすがは作家だけあって文章力、説得力は実にたしたもので、読んでいるだけで読者は全てが納得できると錯覚したほどです。
ここに、オーディオを文学で語る、あるいは文学で語れる新たなジャンルとしてのオーディオ評論が登場したのでした。 本来は電気計測の結果として、電子回路の特異性として、回路設計の確かさとして、あるいは音響工学として、振動力学として素人にはちょっと難しい専門的な理論が先行するはずの電子工学や物理学の分野に当てはまるオーディオの世界に、文学が紛れ込んでいったのです。 素人には文学の方が分かりやすいからでもありますが。
(つづく)