「第1回」ディーン・ディクソン指揮フランクフルト放送交響楽団
・シベリウス「交響曲第1番ホ短調」
指揮者ディーン・ディクソン、と聞かれても知る人は少ないだろう。 しかし、古いエアチェック・ファンの間では、知る人ぞ知る名指揮者だった。
ディーン・ディクソンは1915年アメリカのニューヨークで生まれ、 1976年に61歳という働き盛りで亡くなった黒人指揮者である。 1941年黒人初のニューヨーク・フィル・デビュー、 1944年には自らアメリカ青年響を組織したが、 人種差別を嫌って1949年以降活動の場をヨーロッパに移した後、 1953年から1960年までスウェーデンのイェーテボリ交響楽団の首席指揮者となる。
しかし何といっても1961年から1974年まで常任指揮者を務めた フランクフルト放送交響楽団との関係がディクソンの評価を高めた。 1960年代終わり頃からディクソン&フランクフルト放送響の演奏はFMでまとまった放送があった。 それらの演奏を聴くと、このオーケストラの水準の高さに驚かされる。 このオーケストラの最初の黄金時代を築き上げたのがディクソンだった事は、 疑う余地がない。
今回ご紹介する、シベリウスの交響曲第1番ホ短調は1973年2月22日に、 優れた音響で知られたヘッセン放送協会大ホールで行われた演奏会でのライヴ録音である。
この曲はシベリウスが34歳の時に書かれた美しい旋律と 若々しい情熱にあふれた名曲だが、ディクソン&フランクフルト放送響の演奏は この曲の魅力を余すところなく伝えている。 ”熱い演奏”という一言では言い尽くせない素晴らしさが随所に見られ、 一流の成せる技が見事に聴き取れるのだ。 この曲はティンパニの役割が曲の重要なポイントを握っているように思うが、 ディクソンの演奏はこれが実にうまい。 それによって劇性と活力が生まれ、スケールの大きな演奏にしている。 複雑に変化していく曲想に対しては間の取り方が自然で、 次へと繋がる流れの良さがロマンティックな情感を引き出している。
私はこれほど心を引き付けるこの曲の演奏をほかに知らない。 ディーン・ディクソンのFMで放送された演奏の中には、 フランクフルト放送響とのベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」、 マーラー:交響曲第7番「夜の歌」、スクリャービン:交響曲第2番、 リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」、 「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」、 またバイエルン放送響とのブロッホ:「シェロモ」(チェロはレナード・ローズ)と いった名演があり、ディクソンを知る上で貴重な録音となっている。2012.05.13
(2009年5月9日CDコンサート「私の好きな演奏家 第2回」で紹介)