「第6回」レナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏会

・ブラームス:交響曲第4番ホ短調op.98
・ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番op.72a
バーンスタイン:フルートと小管弦楽のための夜想曲「ハリル」(1981)
(1988.9.8 ルツェルン,クンストハウス)

ブラームスの交響曲第4番は、私にとって、クラシック音楽に深く入り込むきっかけとなった曲である。それだけに、私には最も大切で、かけがえのない作品と言っても良いかも知れない。

最初に買ったレコードは、ウィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団による演奏だったが、それこそ、レコードがすり減る位聴いたものだ。これは、今聴いても名演だと思う。続いてウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル、ヴィクトル・デ・サバータ指揮ベルリン・フィル、ブルーノ・ワルター指揮コロムビア交響楽団、ジョン・バルビローリ指揮ウィーン・フィル等、数々の演奏を聴き漁ったことを思い出す。

本題のライヴ録音に戻ると、1974年にクラウディオ・アバドがウィーン・フィルを指揮したザルツブルク音楽祭での演奏が、アバドらしからぬ熱い演奏で素晴らしい。同じ74年には、セルジュ・チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団の演奏が登場する。チェリビダッケには同じコンビでの82年録音もあり、さらにミュンヘン・フィルとの86年来日公演もある。78年のベーム指揮ウィーン・フィル、79年のオイゲン・ヨッフム指揮ドレスデン国立管、83年のカラヤン指揮ベルリン・フィルと続いた後、1988年に決定的な名演に出会うことになる。それは、ルツェルン音楽週間期間中に、クンストハウスで行われたレナード・バーンスタイン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏である。今回はこの演奏をご紹介したいと思う。

バーンスタインは1981年に、同じウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とこの第4番を正規録音しており、これも名演であったが、今回ご紹介する演奏は、それから7年後の演奏ということになる。

第1楽章は、艶やかな弦の響きで始まると、起伏の大きな呼吸が全体を包み込み、熱い高揚感を持って締めくくる。第2楽章は、良く歌い、ロマン性を引き出しながら、美しく高貴な響きが染み渡り、この演奏で唯一、穏やかな暖かい情感に包まれている。第3楽章は、重厚で引き締まった、力感溢れる響きを全開させるが、ユーモラスでありながら、憂鬱な顔が覗く、この楽章の特徴を見事に捉えている。第4楽章は、ピリピリと押し寄せる緊張感の中、雄弁な語り口に圧倒される。ティンパニの強打も劇的効果をもたらしているが、これほど強烈な印象を残す演奏もないだろう。ドラマティックで説得力のある、彫りの深い演奏と言っても良いかも知れない。この第4交響曲が、これほど魂を揺さぶる曲だったのか、と思い知らされた気がする。

バーンスタインという指揮者は、時にとてつもない名演を残す事がある。1979年、ベルリン・フィルとのマーラー:交響曲第9番が、その良い例だが、この1988年のブラームス:交響曲第4番もそんな演奏のひとつに数えられるべき名演である。

最後に、このコンサートの前半に演奏された2曲について触れておきたい。ベートーヴェンの「レオノーレ」序曲第3番は、ゆったりとしたテンポから、重厚さを全面に押し出し、クライマックスへ向かう推進力も素晴らしく、スケールの大きいシンフォニックな演奏となっている。

バーンスタイン自作の、フルートと小管弦楽のための夜想曲「ハリル」は、1973年のイスラエル戦争で戦死した若いフルート奏者に捧げられた作品として知られている。現代的な響きが支配する中、安らぎにも似たロマンティックな旋律が絡み合いながら、曲は進んで行く。ウォルフガング・シュルツのフルートは、あたかもこの若者の声を代弁するかのように、平和と不安と叫びを柔らかな音色で表現しているように思う。

バーンスタインはこのコンサートから約2年経った1990年10月14日に亡くなっている。生涯にわたって愛したマーラーと共に、ベートーヴェン、ブラームスが、同じようにバーンスタインの心の支えになった事は、このコンサートでの渾身の演奏から伺い知ることが出来る。晩年の境地が示された貴重な録音である。2014.03.17