フランツ=パウル・デッカー指揮モントリオール交響楽団1970年 万博公演

マーラー:「亡き児をしのぶ歌」
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
(1970.6.25 大阪フェスティバルホール)

モーリン・フォレスター(alt)
フランツ=パウル・デッカー指揮モントリオール交響楽団

1970年は大阪で日本万国博覧会が開かれた年である。フェスティバルホールではクラシックの催し物として、一流演奏家達が大挙来日した(同時に東京公演も行われた)。 カラヤン&ベルリン・フィル、セル/ブーレーズ&クリーヴランド管弦楽団、プレートル/ボド&パリ管弦楽団、バーンスタイン/小澤&ニューヨーク・フィル、アルヴィド・ヤンソンス&レニングラード・フィル、ロヴィツキ&ワルシャワ・フィル、プリッチャード/ダウンズ&ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、フランツ=パウル・デッカー&モントリオール交響楽団、マゼール&ベルリン・ドイツ・オペラ、ロストロポーヴィチ/ロジェストヴェンスキー/シモノフ&ボリショイ歌劇場等、豪華な顔ぶれである。 当時高校生だった私も、バルビローリが聴きたい一心で、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(現フィルハーモニア管弦楽団)演奏会のチケットを買い、東京文化会館へ出かけた。 しかし、バルビローリは来日直前に急逝、代役はジョン・プリッチャードだったが、あまりにもバルビローリへの期待が大きかったせいか、満足のいくコンサートとはならなかった(当時のチケットにはバルビローリの名が印刷されている(写真1))。

写真1 チケットに名前がある指揮者バルビローリは来日直前に急逝、代役はジョン・プリッチャードだった

 

フランツ=パウル・デッカー

1970年に来日した名だたる演奏家の中では、フランツ=パウル・デッカー&モントリオール交響楽団が知名度では一番低かったのではないだろうか。 しかし、この演奏を聴いてその実力のほどを知った音楽ファンも多かったに違いない。 今回は1970年6月25日に大阪フェスティバルホールで行われた演奏会のライヴ録音をご紹介したい。
このオーケストラは後にシャルル・デュトワを音楽監督(1977年〜2002年)に迎え、デッカへの多くの録音によって世界的なオーケストラに数えられるようになった。 この頃はフランス的なオーケストラとしてフランス物が数多く録音されたが、1970年フランツ=パウル・デッカーに率いられて来日したモントリオール交響楽団の演奏会では、マーラー、リヒャルト・シュトラウス、モーツァルト、ワーグナー、ブルックナー等ドイツ物を中心としたプログラムが組まれていた(ただ、このオーケストラだけが大阪の3公演のみで、東京公演を行わなかったのは残念だった)。
フランツ=パウル・デッカーは1923年ケルンで生まれ、2014年に亡くなったドイツの指揮者で、22歳のときにケルン・オペラを指揮して指揮者デビュー。 ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、モントリオール交響楽団音楽監督、バルセロナ交響楽団音楽監督、ニュージーランド交響楽団首席指揮者ほか、多くのオーケストラの音楽監督を務め、優れたオーケストラ・トレーナーとしての手腕を発揮していく。
リヒャルト・シュトラウスとも親交があったというデッカーがこの日のコンサートで取り上げたのが、マーラーとリヒャルト・シュトラウスだった。 マーラーの「亡き児をしのぶ歌」の独唱にはマーラーを得意とするカナダ出身の名アルト、モーリン・フォレスター(1930~2010)。 ピーンと一本筋が通ったような力強さとじっくりと歌い込んだ情感たっぷりの歌唱が素晴らしく、陰影に富んだオーケストラの響きがそれを包み込み、美しさを際立たせているのが印象的だ。 「英雄の生涯」では、のびのびと大らかにうたう。 生き生きとした響きは推進力があり、「英雄の戦場」での凄まじい圧倒的な高揚感など、内に秘めたパワーが全開、技術的には一流の域には達していなくとも、それを上回る鍛え上げられたアンサンブルを持って、デッカーの指揮に積極的に反応するオーケストラも見事だ。

フランツ=パウル・デッカー

 

古い音楽ファンであれば、1965年に録音されたブルーノ・レオナルド・ゲルバーのピアノとフランツ=パウル・デッカー指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団によるブラームスのピアノ協奏曲第1番を思い出すかも知れない。 しかしその後、デッカーは録音には恵まれなかったようで、今日ではほとんど忘れ去られた指揮者となってしまった。 幸いナクソス・レーベルからニュージーランド交響楽団を指揮した2枚のCDが入手可能なので、この名指揮者の演奏に触れていただけたらと思う。 どちらも聴きごたえ充分の名演。

 

 

 

 

1.ヒンデミット:交響曲「画家マティス」/組曲「気高き幻想」/ウエーバーの主題による交響的変容
フランツ=パウル・デッカー指揮ニュージーランド交響楽団(1994.4)
http://ml.naxos.jp/album/8.553078

 

2.レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ/ヒラーの主題による変奏曲とフーガ
フランツ=パウル・デッカー指揮ニュージーランド交響楽団(1994.4)