「サントリーホール・エグゼクティブ・プロデューサー 眞鍋圭子さん  特別記念講演会」
“世界の巨匠達が奏でたサントリーホールの30年”

日 時:2016年06月04日(土) 午後2時 - 午後4時30分
場 所:竜ヶ崎ショッピングセンター・リブラ 2階 「旧映画館」
講 師:眞鍋圭子さん(サントリーホール・エグゼクティブ・プロデューサー)

 今回は「NPO法人 龍ヶ崎ゲヴァントハウス」のCDコンサート10周年を記念して 眞鍋圭子さんをお招きし、特別記念講演会を開催しました。 眞鍋さんは今年開館30周年を迎えるサントリーホール記念公演準備でお忙しい中、 我々地方都市の音楽愛好家のために龍ケ崎までお越しいただき、 サントリーホール誕生秘話から数々の巨匠達のエピソードまで クラシック音楽界の素顔をお話しいただきました。

<サントリーホール誕生秘話>

ホールのオープンは1986年10月12日、これには当時のサントリー社長 佐治敬三氏の音楽への深い敬愛があったようです。 佐治氏は1982年頃から「クラシック音楽専用ホール」を建設すべく 世界の音楽ホールを視察し、その下準備が始まったとのこと。 そんな中、1983年1月に佐治夫妻と建築家の佐野正一氏がベルリンを訪れ、 眞鍋さんの導きによりヘルベルト・フォン・カラヤンの特別の計らいで フィルハーモニー(ホール)でのベルリン・フィルのリハーサルを見学され、 その音響の素晴らしさを確認されたようです。 オルガンの設置の必要性など様々な逸話はとても興味深いものがありました。 そしてカラヤンは「聴衆はコンサートホールでしか聴けないものを 体験するために来る。 それにはオーケストを真ん中において、聴衆と一体となってお互い啓発し 音楽をできる形が良い。」とアドバイスしたようです。 佐治氏はこの言葉に啓発され「シューボックス型」ではなく 「ヴィンヤード型ホール」を決定されたようです。 この後、わずか3年と驚異的な速さでリーガル社製パイプオルガン付き サントリーホールが開館できたのは決断力に秀でた佐治社長と “無給のホール設計アドバイザー、カラヤン”あってこそ実現できたのでしょう。 カラヤンの「いいホールとはいい音楽があるホールだ」との遺訓の下、 眞鍋さんが世界の名演奏家招聘に尽力されている姿がひしひしと伝わりました。

ライブ音源を使ってカラヤンが80年代に力を入れていたR・シュトラウスの アルペン・シンフォニーと88年来日最後のコンサートから中低域たっぷりの ブラームスの「第1番」を聴き、在りし日のカラヤンを偲びました。 入魂のブラームスでは会場からも拍手が沸き起こりました。

<ウィーン・フィルとベルリン・フィルの音の違い>

伝統的なホルン(F菅)、オーボエやティンパニを使用する ウィーン・フィルと最高のテクニックを持つベルリン・フィルの 音の違いをカール・ベーム指揮のシューベルト“ザ・グレート”で 分かりやすく解説いただきました。 奏法を何代にも渡って引き継がれ伝統に裏打ちされたウィーンの香り高き響きと、 世界中から最高の奏者をオーデションのみで選ぶオーケストラの響きの違いが とてもよく分かる選曲でした。

<30周年記念コンサート>

この秋のウィーン・フィルの演目紹介では、ズビン・メータ指揮 ブルックナー「7番」でのワーグナーチューバの完璧な響きへの期待や、 30周年ガラ・コンサートでは、日本的なものを、という事で、カラヤンの 愛弟子アンネ・ゾフィー・ムターが武満徹の没後20年に合わせて小澤征爾と 「ノスタルジア」を、北斎の「波」と必ず関連づけられる為、日本的な イメージがあるドビュッシーの交響詩「海」はメータの指揮で、等 選曲秘話が紹介されました。

モーツァルトにはオペラ経験が豊富なオーケストラが必要とのお話の後、 89年のメータ指揮/ウィーン・フィルでの“リンツ”のライブ録音で芳醇な ウィーンサウンドを聴き、秋の来日に思いを馳せました。

<イースター音楽祭>

カラヤンが独自でワーグナーをやりたいとの一心の思いで 1967年から始めたザルツブルグでのイースター音楽祭は自費で始められ、 音をより良くするために反響板を自前で調達する熱の入れようだったとか。 ベルリン・フィルが今のベルリン・フィルの響きになったのはここで オペラをやりだしてから、オーケストラは歌を知らなければいい音楽は できないとの信念がカラヤンにはあり、特に管楽器奏者はここでの オペラ経験に感謝したようです。 2012年まではベルリン・フィルがオーケストラ・ピットに入る 唯一の音楽祭として人気を博してきましたが、ベルリンのオーケストラが ザルツブルクで音楽祭を開くことに政治上の軋轢があったようで、 現在はクリスチアン・ティーレマン率いるシュターツカペレ・ ドレスデンによる新たな時代で来年50周年を迎えます。 現在ベルリン・フィルはバーデン=バーデンでイースター音楽祭を行っています。

<ザルツブルグ・イースター音楽祭 in JAPAN>

今年11月のサントリーホールではティーレマン指揮シュターツカペレ・ ドレスデンが来日しイースター音楽祭が開催されます。 クリスティアン・ティーレマンはベルリン生まれで5歳からピアノを学び、 16歳の時にカラヤンに相談したところ、大学受験資格を取った後は 音楽学校には行かず伴奏ピアニストとして実践で経験を積めとの指示があったよう。 カラヤンにはザルツブルグ音楽祭でもオペラの伴奏をプロシャ的 (規律正しく勉強に努めること)に行うべきとの薫陶を受けたようです。 アルプス・シンフォニーやピアニストのイェフム・ブロンフマンを ソリストに迎えたベートーヴェンのコンチェルトなどが予定されています。 ブロンフマンは14歳からイスラエル・フィルと世界中を回り実績を積み上げてきた 巨匠でコンクール上がりの人ではない。 ティーレマンは彼を高く評価し日本でのコンサートには絶対彼を 招聘すべきとの強い要望で実現したとのこと。 その他、演奏会形式でワーグナーの楽劇「ラインの黄金」が公演される との紹介がありました。

2003年来日時のティーレマン指揮ウィーン・フィルでの ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」のライブ録音から 「愛の死」の部分を聴いてその素晴らしさに浸りました。

今回の眞鍋氏の講演は満席で、席が不足するのではとハラハラした ところがありました。 世界の巨匠達に愛されたそのプロデュース力は眞鍋さんの音楽を敬愛する 人間的魅力あってこそだと感じました。 サントリーホールで繰り広げられた巨匠たちの数々の名演奏に我々が浸ることが できたのは眞鍋さんのご尽力による面が大きいことを参加の皆様は 感じられたことと思います。 お陰様で盛況に10周年特別記念講演会を終えることができました。(fumi)

当日配布されたプログラム