-
グレン・グールド (その3)
私事で恐縮ですが夏に長袖のシャツを着て上着を羽織らないとエアコンの効いた環境では不調になる筆者には、グールドが6月だと言うのに手袋とコートを着用するのは「変人」であるどころか、必要欠くべからざるものであることが良く分かります。また、当時のソビエト連邦に演奏旅行に赴いた際に5月のレニングラード(サンクトペテルブルグ、いくら北の国ロシアとは言え5月は穏やかな気候です)のホテルで寒いと言ってヒーターを入れさせたとも聞いていますが、それは病の故で体温の調整がままならないからなのです。分かりやすく言えば冷え症、血行障害です。身体が生きる為に持っている調整機能がうまく働かない、自律神経失調症と言う言い方をする事もある病です。
グールドの奇人変人ぶりの入口はここから始まります。グールドは自身の病を口にしないし、ごく一般的には芸術家は変人が多いとステレオタイプに見るだけで、それが病の故だとは見ないのです。相手が奇才のピアニストですから気が付かないだけかもしれません。
ましてやグールドはピアニストです。商売道具の手を守るのに暖かい気候であるにも関わらず手袋をしていてもあまり奇異には思われないと言う作用が働いたのは想像出来ます。やはりとびぬけた才能を宿す演奏家は「変人」なのだと、むしろ受け取る側がホッとして胸を撫で下ろしさえしたのだと思います。
だけれどもこの程度の「変人ぶり」なら、ここまでは才能に満ち溢れた天才でずいぶん「寒がりな」ピアニストで済みますが、それでさえもグールドは周りに言わなかったのです。
なぜか?
実は、グールドにはもっと重大で憂慮すべき病を持っていたのです。一部には先ほど書きました自律神経失調症の広義の解釈に含まれる事もある非常に厄介な病です。自律神経失調症の一種となればグールドはもっと重大な病に触れられたくないのですから、冷え症、血行障害についても口を閉ざすのは致し方が無いのだと思います。
グレン・グールドが口を閉ざした病とは何だったのでしょう?
その4に続く