「序奏」I
バルトロメオ・クリストフォリの名前を目にして何者かを御存じの方はかなりピアノに関心が御有りの方であろう。1709年にこのクリストフォリの手になる初めてのピアノが誕生したと歴史は伝えている。1747年にフリードリッヒ大王と謁見した大バッハは宮廷にあったジルバーマンのピアノフォルテを引いて3声の即興を行った。
ピアノも歴史ある楽器である事が分かる。だがヴァイオリンと違い、ニコロ・アマティが作ったヴァイオリンは既にして完成された今日のヴァイオリンと違わぬ姿をしていたのに対してピアノは未完成な楽器でありフランツ・リストの最晩年になってようやく今日の姿になって完成を見た。機構や材料の絶え間ない改良により18世紀~19世紀の後半に掛けてピアノは発展を続けた楽器なのだ。どの様なピアノがありどの様に改良されて来たかは本一冊の分量では足りないので別の機会にするが、モーツァルトやベートーヴェンが偉大なピアニストでありピアノの発展はこうした作曲家とのかかわりからも窺えることである。
さてピアノがそうした絶え間ない発展を続けたのは実は工業の発展と繋がっている。他の楽器がどちらかと言うと家内制手工業的なものを感じるのとは違いピアノはその複雑な機構を通して近代的な工業製品と感じられる。チェンバロの時代からピアノだって手工業製品だったのだが、他の楽器と違いピアノは明らかに工業の発達と密接に結びついて発達した楽器である。フレームの金属化などはそれを強く感じさせられる。産業革命の申し子と言ってもかまわない楽器がピアノだと言ったら言い過ぎだろうか。そうした事柄も織り交ぜながらピアノそのものとピアニスト達とそのピアニズムに付いて何かしらの話をまとめて見ようと思う。2014.05.11